2018 年度前期 第 8 回 細胞生物学セミナー

日時: 6 月 19 日 (火) 17:00~  場所: 総合研究棟 6 階クリエーションルーム

A statistical approach to root system classification

Bodner, G., Leitner, D., Nakhforoosh, A., Sobotik, M., Moder, K., Kaul, H. P. (2013)

Front. Plant Sci. 4: 292

根系の分類のための統計学的なアプローチ

植物の根系は、陸上への植物の定着と密接に関係しており、根は環境の変化に対する適応と生物多様性の鍵となる器官である。 近年、根の研究は迅速に発展してきており、主根系かひげ根系かといった発生に基づいた根の分類法に関する知見は多数ある一方で、多様性のある根系を区別するための根の機能に基づいた分類法は確立していない。 根系の多様性の適切な特徴付けは、作物の改良、地球変動による種の分布の変化の予測、あるいは炭素循環における根の機能の調査等の様々な目的に必須であり、この多様性を捉えるためには根系の分類法が必要である。 本論文では、今まで主に利用されてきた個々の形質に基づく根系の比較の問題点を指摘し、多変量解析を用いたデータに基づく (data-defined) 根系の機能的な分類法を提案および検証することを目的とした。

解析対象として、被覆作物と穀草のフィールドサンプルと、根系のシミュレーションモデルを用意した。 被覆作物のグループとして、マメ科 4 種、アブラナ科 2 種、ムラサキ科、アマ科、タデ科、イネ科各 1 種、また複数の種を混植した物 2 種類を用いた。 穀草のグループとして、デュラムコムギ 7 品種、ヒトツブコムギ 2 品種、リベットコムギの亜種 Triticum turgidum subsp. turanicum とチモフェービコムギ各 1 品種を用いた。 さらに、根の成長や分枝、屈性のパラメーターを変化させてシミュレーションした様々な構造の 288 個の根系モデルを使用した。 これらのサンプルから得られた根の形質のデータセットを、主成分分析とバイプロットによる解析をしたのち、クラスター分析を行うことで根系を機能的に分類した。

まず、フィールドサンプルについて単変量の分散分析を行った結果、根系を比較する上で 4 つの問題点があることが明らかになった。 (i) 単変量解析では使用した形質によって種の順位が変動するため、決定的な根系の像が捉えられない。 (ii) 連動している形質も、それらが独立していることを前提に解析しているため、根系レベルでの包括的な比較ができない。 (iii) 根の構造的な適応や機能的な挙動の同定には、複数の形質を同時に考慮するべきであり、個々の形質の評価だけでは十分とはいえない。 (iv) 個々の形質の比較結果は研究特異的であり、根系全体の特徴を捉える上で、研究間での結果に矛盾が生じたり、相互比較が困難になりやすいと考えられる。 これより、根系の比較を行うには、構造的、機能的な特徴を捉えるための多形質を評価できる方法が必要であることが示された。

次に主成分分析を行い、バイプロットを作成した。 その結果、シミュレーションモデルでは、第 1 主成分 (PC1) は密度やトポロジーに関わるパラメーター、第 2 主成分 (PC2) は主に直径や深さを反映し、主成分得点から 6 つの根のタイプが同定された。 フィールドサンプルにおいても各主成分に同様の傾向が見られ、密度に関わる形質 (詳細な長さ、表面積など) は PC1 に、直径や単純な長さは PC2 に強い影響を与えていた。 また、シミュレーションモデルと被覆作物または穀草の間で、共通のパラメーターと主成分得点の有意な関連性が確認され、根系の機能的な分類には形態学的なパラメーターが必要であることが示された。

主成分分析で得られた結果をクラスター分析によって種間の距離を決定し、機能的な分類を示す樹状図を作成した。 統計学的な基準 (立方体クラスター規準、pseudo-F, pseudo-t2) を用いて樹状図を区切ることでグループ数を決定した結果、シミュレーションモデルで 6 グループ、被覆作物で 4 グループ、穀草で 4 グループに分けられた。 クラスター分析では遺伝的背景との関連性が示され、根系レベルでの類似性には系統発生学的な要因があることが示唆された。

以上より、多変量解析を用いた根系の機能的な分類方法は、従来用いられてきた単変量解析の問題点を解消し、先験的な判断基準を必要とせず、データに基づいて根系のパラメーターを効率的に統合できることが示された。 根系の機能的なタイプの分類には、軸の形態や空間分布といった形態学的なデータセットが必要であることが示唆され、これまでの形態学的な知見と統合するには、多変量解析によるアプローチが有効であると考えられる。