2018年後期 第1回 細胞生物学セミナー

日時:1023日(火) 17:00〜 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

LAZY genes mediate the effects of gravity on auxin gradients and plant architecture

Yoshihara, T. and Spalding, E. P. (2017)

Plant Physiol., 175: 959–969

LAZY遺伝子はオーキシン勾配と植物構造によって重力の影響を媒介する

植物の生得的な成長や環境への適応的な応答が植物を形作る。植物形態へ影響する主要な環境要因は重力である。重力は一次成長の方向と同様に地上と地下の側面の器官の配向を制御する。一般的に、一次成長の根とシュートの軸は垂直である。主軸に沿って、適切なある角度で横に分枝を伸ばす。例えば、シロイヌナズナの花序分枝は主軸から約40°に成長する。もし植物の主軸を垂直から傾けると、重力方向による元の配向に戻るまで重力屈性により分枝が曲がる。この行動は植物の器官が重力に応じて設定した角度 (set point angle)を適用することを示す。オーキシン勾配が偏差成長によりこの角度を設定する。イネ(Oryza sativa L.)の変異体はシュートの配向を調節する植物特異的なLAZY1タンパク質の発見に繋がった。シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana (L.) Heynh. )は空間的に別々の発現パターンをもつ6つのLAZY遺伝子をもっている。AtLAZY遺伝子の機能解析は重力屈性、オーキシン勾配や植物構造などに貢献する。これまでは単一のLAZY遺伝子に関連した表現型の分枝角が調べられたが、本研究では単一及び多重のatlazy変異体の根とシュートで調べた。

 まず、AtLAZYファミリー遺伝子の発現パターンを調べた。AtLAZY遺伝子の発現パターンはβ-glucuronidase (GUS)レポーター遺伝子を使い調べた。明条件ではAtLAZY1プロモーターの活性は維管束系を含め実生からシュートにかけ、根ではかすかに明白であった。AtLAZY2は胚軸と根端で、AtLAZY3は根端のみで、AtLAZY4は胚軸の下側と根の中心柱で、AtLAZY5は根端を除き全域で、AtLAZY6は葉柄でのみ発現しており、発現パターンは明暗条件で似ていた。次に5つのAtLAZY遺伝子にT-DNAが挿入された変異株を暗条件で3日間育て、胚軸が垂直になるように垂直な寒天プレートに移動した。そしてプレートを90°回転させ(水平刺激)、その後カメラを使いタイムラプスイメージングを行った。単一変異体のatlazy1は明らかに胚軸の重力屈性を失った。atlazy1は他のatlazy2atlazy4との多重変異体では、さらに重力屈性が低下した。一方で、根の重力屈性については白色光下で生育したものを調べた。atlazy4は少し、atlazy2は中程度の重力屈性の度合いの減少を示した。同じく変異数が増加するにつれて重力屈性の度合いがより低下した。先行研究ではatlazy2,3,4 (atngr1,2,3)の根は負の重力屈性を示したが、私たちの研究では負の重力屈性は見られなかった。そこで栽培条件を変え、生育後3日間の暗所、暗い赤色光、白色光2日間と暗い赤色光1日という光条件下で影響を調べたところ、暗い赤色光下ではatlazy2,3,4atlazy1,2,3,4は最も大きな負の重力屈性を示したため、以降の重力屈性は暗い赤赤色光下で調べた。野生とatlazy2,3,4は遺伝的にオーキシン量に依存して発現量が低下するオーキシン・リポーター(DII-VENUS)発現株を用いて、水平刺激のオーキシン分布を調べた。その結果、野生型の根では下側より上側でVENUSの蛍光強度が大きくなったが、atlazy2,3,4では上側より下側で大きくなった。また、DIIドメインに変異が入ったmDII-VENUSは上下で差は見られなかった。根においてNPANPPBは成長率に影響を与えずに重力屈性を抑える。atlazy2,3,4はこの処理によって重力屈性が抑えられた。atlazy2,3,4において、オーキシン極性輸送阻害剤のNPANPPBは根において成長に影響を与えずに負の重力屈性を抑えた。成熟個体のLAZYタンパク質の役割も調べられた。atlazy1,2,4の花序茎は、明らかに主軸を直立させ分枝を適切な角度に保つ能力を欠損していた。根系において、AtLAZY4 (AtDRO1)が側根の角度を調節することが知られているが、atlazy2atlazy4は野生型よりも優位に分枝角が増加していた。一方で、atlazy2,4では側根は水平化それ以上に配向した。atlazy2,3,4では主根の方向も大きく乱れた。水平刺激した場合、野生型の側根は再配向したのに対し、atlazy2,4では再配向せず、水平な状態で伸び続けた。以上より、LAZYとは独立した、重力により形成されるものとは逆のオーキシン濃度勾配を形成するしくみを、LAZYが無効にすることで、重力感受とオーキシン濃度勾配形成を共役させて植物の形態を制御していると考えられる。

興味を持たれた方はぜひご参加ください。    杉本憲俊