2018年度後期 第2回 細胞生物学セミナー
日時:10月30日(火)17:00〜 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム
An ABC transporter is involved in the silicon-induced formation of Casparian bands in the exodermis of rice
Hinrichs, M., Fleck, A. T., Biedermann, E., Ngo, N. S., Schreiber, L., Schenk, M, K. (2017)
Front. Plant Sci. 4: doi: 10.3389/fpls.2017.00671
ABCトランスポーターは、イネの外皮におけるカスパリー線のケイ素誘導形成に関与している
ケイ素(Si)は必須元素ではないが、植物の成長にいくつかの有益な効果をもたらす。これは土壌表面で最も豊富な元素の一つであり、土壌溶液のケイ酸濃度は2.5〜20 mg/Lである。Siの蓄積能力は植物によって異なり、イネは窒素、カリウムまたはカルシウムよりもさらに高濃度蓄積することが知られている。Siの効果の一つは、葉や根の機械的バリアの形成である。冠水条件下では、イネの不定根は、皮層の細胞壁の溶解によって通気組織を発達させる。外皮のカスパリー線(CB)によって酸素が通気組織から根圏へ拡散されるのが妨げられる。また、外皮のCBはイオンが土壌溶液から皮層へ流入するのを減少させると考えられている。CBの主成分はリグニンとスベリンであり、これらは、フェニルプロパノイド経路によって合成される。根においてSi供給により外皮のCB形成が促進されることや、二次代謝経路に関与したいくつかの遺伝子や、ロイシンリッチリピート(LRR)ファミリータンパク質、およびリグニンやスベリンのモノマーをアポプラストに輸送すると推測されるABCトランスポーター(OsABCG25; LOC_Os10g30610)の発現が増加することが知られている。本研究では、CB形成におけるOsABCG25の関与、さらにリグニンおよびスベリン代謝に関連する遺伝子の発現を調査した。また、ノックアウト(KO)および過剰発現(OE)変異体を用いて、根からの放射状酸素放出(ROL)およびFe取り込みに関する外皮CBのバリア機能を調査した。
植物材料はイネ(Oryza sativa L.)の野生型(WT)、ヘテロ接合体およびホモ接合体変異体を含むT1種子を用いた。種子を数日間水道水中に置き発芽させ、実生を10 Lの土壌入りの鉢に移し、28℃、最低限220 μmol/m2sの光強度の温室内で成熟するまで栽培した。数週間後、葉からのDNAを用いて植物の遺伝子型を決定し、ホモ接合変異体植物のみをさらに栽培した。また、T2種子は栄養液中で栽培した。これらを用いて、遺伝子型、根の組織化学検定、トランスクリプトーム解析、スベリン解析、ROLの可視化、化学分析、統計分析を行った。
ABCトランスポーターOsABCG25の発現は、WTと比較してOE植物においては、低(3 mg/L)高(30 mg-L)両方のSiレベルで4倍に増加したが、KO植物においては1/6に減少した。高Siレベルでは、低Siレベルと比べてWTおよびOE植物において2倍に遺伝子発現を促進したが、KO植物では促進しなかった。しかし、外側細胞層(OPR)におけるスベリン成分は、これらの変異体間で顕著な違いは見られなかった。OE変異体におけるCB形成は、WTと比較し両方のSiレベルにおいて有意に高められた。しかし、KO変異体ではWTと変わらなかった。これらの知見はROLの観察とよく一致した。
フェニルプロパノイド経路の第1段階を触媒するphenylalanine-ammonia-lyase(PAL)およびLRR受容体様キナーゼは、KO株において発現減少したが、OEにおいて発現増加した。さらに、OEにおいて4-coumarate-CoA ligase(4CL)は発現減少し、スベリン合成に関わるdiacylglycerol O-acyltransferase(DGOAT)の発現が増加した。これらの知見は、OE変異体におけるモノリグノールの形成が減少した一方で、スベリンモノマーへの経路が増強され、スベリンモノマーがOE ABCトランスポーターOsABCG25の基質であることを示唆する。クマル酸とフェルラ酸の両方の芳香族スベリン総量はKO株で低かったことから、OPRにおいて細胞壁代謝が影響を受けたことが示唆される。KO株ではCB発達が影響を受けなかったことは、KOトランスポーターの機能が他のトランスポーターに置換されうることを示唆する。OE株ではシュートにおけるFe濃度が減少したが、これは栄養液からアポプラストへのFe流入が、外皮CBのSiによる発達増強によって損なわれたためと考えられる。つまり、外皮CBの発達増加はアポプラストへのイオン流をコントロールする拡散バリアとしてはたらくと結論付けられる。
興味を持たれた方はぜひご参加ください。 豊田 優一