2018後期 第3回 細胞生物学セミナー
日時:11月6日(火)17:00〜 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム
Abscisic acid induced freezing tolerance in chilling-sensitive suspension cultures and seedlings of rice
Shinkawa, R., Morishita, A., Amikura, K., Machida, R., Murakawa, H., Kuchitsu, K., Ishikawa, M. (2013) BMC Research Notes, 6:351
アブシシン酸によるイネの低温感受性懸濁培養および実生における凍結耐性誘導について
低温順化過程での考えられるアクチベーターとしてのアブシジン酸(ABA)の役割は、内生ABAのレベルが低温下で一時的または構成的に増加することで発揮されると考えられる。外生のABAは、低温耐性植物の培養系において、室温で凍結耐性を誘導することが知られている。ある培養細胞は、活発な成長を維持しながら、寒さによるものよりもずっと大きな凍結耐性をABAによって獲得する。またシロイヌナズナのABA非感受性変異体の解析から、いくつかの低温で制御される遺伝子は、外生ABAによく応答するが、低温による発現では必ずしもABAによって媒介されないことが明らかにされている。さらに低温応答遺伝子の解析により、ABA依存性およびABA非依存性の転写経路が存在し、これらの経路間のクロストークも明らかになっている。これらの事実から低温応答の活性化におけるABAの役割は、考えられていたよりも小さいと考えられている。そこでABA、低温順応、および成長の停止の間の関係を明らかにするために、我々は、外生ABAが低温に反応して凍結耐性を獲得する機構を欠く低温感受性イネ懸濁培養細胞および実生に、凍結耐性を与えることができるかどうかを確認し、条件を最適化してこの現象を特徴付け、低温耐性のコスズメノチャヒキ(Bromus inermis Leyss.’Manchar’)の培養細胞の場合と比較することを試みた。
イネの非胚発生懸濁培養細胞は、4℃に曝されると深刻な低温障害(冷害)を受けた。また凍結耐性は植え継ぐ細胞量、ABA濃度、処理温度、処理期間の影響を受けた。凍結耐性誘導の最適条件(細胞接種物が0.5〜1 g、ABA濃度が75 μM、処理温度が25〜30℃、処理期間が7〜10日)で細胞をABA処理した場合、それらは-9.0〜-9.3℃まで低速凍結すると生き残った(2 ℃/ h)、一方で対照細胞は-3℃で大部分が損傷された。また懸濁培養細胞と実生で凍結耐性を比較した結果、懸濁培養細胞の方が凍結耐性は大きかった。懸濁培養細胞を-3℃の氷へ予備移植することで、ABA処理したイネ細胞が-9℃で細胞外凍結を生き延びたことが確認された。2~7日間ABA処理した実生およびその葉は、表層が損傷するのみで-3℃までゆっくりと凍結して生存した。ABAに誘発されるイネ細胞の凍結耐性は、低温への暴露を必要とせず、25〜30℃で達成され、ABAの存在下でもその温度で細胞の高増殖が維持された。ABA処理はまた、再増殖を指標とする熱(43℃)に対する耐性を増加させた。ABAで処理した細胞は、対照細胞と比較して浸透圧が増加し、含水量を減少させて、細胞質をより増加し、液胞サイズを減少させる傾向があった。これらの細胞の特徴は低温順化細胞の典型的な特徴であるが、ABAが重要な役割を果たす、種子で胚が発達し成熟する場合に細胞にみられる特徴としても典型的である。
この結果は、おそらく低温誘導による低温順応とは異なるメカニズムを誘発することによって、外生ABAが、低温感受性イネ細胞および実生においてある程度の凍結耐性を誘導し得ることを示している。そしてこのメカニズムはおそらく種子の発育および成熟を模倣していると考えられる。しかし、ABAによるイネで誘導された凍結耐性のレベルは低温耐性のコスズメノチャヒキ細胞の場合よりもはるかに低かった。その理由の解明にはさらなる研究が必要である。
興味を持たれた方は是非ご参加ください 内山 直樹