2018 年度後期 第 4 回 細胞生物学セミナー
日時: 11 月 20 日 (火) 16:30~ 場所: 総合研究棟 6 階クリエーションルーム
Non-destructive quantification of cereal roots in soil using high-resolution X-ray tomography
Flavel, R. J., Guppy, C. N., Tighe, M., Watt, M., McNeill, A., Young, I. M. (2012)
J. Exp. Bot. 63: 2503-2511
高解像度 X 線トモグラフィーを用いた土壌中の穀草の根の非破壊的な定量化
土壌中での植物の成長の理解における重大な制約は,土壌が不透明であるため in situ で根の観察ができないことである. 現在用いられている土壌中での根の標準的な観察法は,土壌塊の洗浄や,土や根のサンプリングといった破壊的で時間を要するものであり,精度が限られており,根の成長を三次元的に見ることができない. 一方で,非破壊的かつ三次元的に土壌中の根を観察する方法として,X線コンピュータートモグラフィー (CT) などが用いられてきており,これまでに解像度や画質,撮影時間などの改良がなされてきたが,解像度の向上に伴うサンプルの大きさの制限のため,多くの解析は成長初期段階での植物体が対象となっていた. 本研究では,長期的に栽培し根が複雑化した植物体を用いて,標準的な観察法で得られた結果と比較して,高解像度 CT (マイクロ CT) を用いた根の定量の精度を評価することを目的とした. さらに,根の成長を高速に解析する CT 技術の可能性を検討し,X 線曝露が根の成長に与える影響を調べることを副次的な目的とした.
コムギ (Triticum aestivum L. 'Gregory') の種子を,直径 30 mm, 高さ 260 mm のポリ塩化ビニル製のポットに播種し,温室 (昼 25℃, 夜 15℃) で 29 日間栽培した. 培地には,粒径 0.5~1 mm の花崗岩砂 90% (w/w) と赤色フェロソル 10% (w/w) からなる多孔質の土を使用し,基本栄養分として 1 kg あたり窒素 50 mg,硫黄 10 mg,カリウム 20 mg を添加し,根系の大きさと複雑さを変化させるため,1 ポットあたり 75 mg のリン酸二水素カルシウムを,土壌表面から 50 mm の位置に深さ 20 mm の範囲に集中させて添加する「帯状リン処理」,土全体に均等に分散させる「拡散リン処理」,または添加しない「対照処理」の 3 種類のリン処理を施した. 播種から 11, 15, 19, 22 日後と回収日の 29 日目に,ポットは Vtomexs スキャナー (GE Phoenix) に設置し,100 kV, 270 µA の X 線を用いて 68.23 µm のボクセル解像度で X 線 CT スキャンを行った. 再構成で得られたトモグラムは,手動で同定した根を開始点として局所的な閾値設定をすることで二値化し,不連続な根を接続するためガウスフィルターを適用した. その後,それぞれの連続した領域について,根かノイズかを手動で評価し,ノイズを除去することで最終的なボリュームデータを得た. このデータに細線化処理を行い,根長,分枝の数,分枝の両端の直線距離を測定した. 一方で標準的な観察法では,ポットから土を取り出し,目開き 1 mm のふるいの上で土を洗い流すことで根を抽出した. 根はトルイジンブルーで染色したのち,フラットベッドスキャナーを用いて 42.3 μm のピクセルサイズでスキャンし, WinRhizo を用いて根の長さと直径を測定した.
一般に,画像上で検出できる構造の最小直径は,ピクセルまたはボクセル解像度の 2 倍と考えられている (Kaestner et al., 2006) が,本実験で得られたトモグラムでは,解像度の約 2 倍にあたる直径約 144 µm 以上の根だけでなく,それより細い根も確認された. しかし,細い根は,体積平均効果によって誤って土と判別されたり,ノイズとの区別ができないことに加えて,根と電子密度が近い水の存在によって,セグメンテーション時に断片化し,フィルターで不連続な構造が除去されたため,ボリュームデータ中のほとんどの根は直径が 250 µm 以上になった. マイクロ CT による根長の測定結果は,WinRhizo の結果より 8% 短くなったが,高い線形的な相関が見られた. X 線への曝露による根の成長への影響について調べたところ,根の分枝数や長さ,直径に変化は見られず,シュートへの影響も見られなかった. WinRhizo による測定では帯状リン処理した根は対照処理より有意に長くなった一方で,X 線マイクロ CT では有意差は見られなかったが,リン処理の傾向はいずれの方法でも同じ傾向が見られた.
以上より,マイクロ CT で観察した根は,標準的な方法で観察した根と高い相関があり,高速かつ安全に比較的高い分解能で根を検出できることが示された. CT 法ではスキャン技術よりも,根を土や空気と区別するためのソフトウェア面での制約があるが,自動セグメンテーションのアルゴリズムが開発されるにつれて大幅に改善され,高速なスキャン技術と組み合わせることで,土壌中の根のハイスループットな解析の実現に繋がると考えられる.