2018年度後期 第5回 細胞生物学セミナー
日時:11月27日(火)16:30〜 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム
Cell cycle acceleration and changes in essential nuclear functions induced by simulated microgravity in a synchronized Arabidopsis cell culture
Kamal, K., Herranz, R., Loon, J., Medina, J. (2018)
Plant Cell Environ. DOI : 10.1111/pce.13422
同調化されたシロイヌナズナ培養細胞では、
疑似微小重力によって細胞周期の加速および変化が引き起こされる
重力ベクトルの変化が細胞増殖および細胞成長に影響することは様々な種において示されている。実際に、真核生物は本質的に似た機構によって細胞増殖を制御しているが、微小重力に対して種により異なった応答を示す。しかし、特に細胞プロセスの調節における重力変化の影響について多くの点が未解明である。本研究は、重力ベクトルの平均化が可能な装置であるRandom Positioning Machine(RPM)で得られる疑似微小重力下で、細胞周期の段階を同調化した細胞を使用し、重力変化による、各細胞周期段階における転写物変化およびクロマチンリモデリングを含む、細胞成長および細胞増殖の変化を明らかにすることを目的とした。
試料はシロイヌナズナArabidopsis thaliana (L.) (ecotype Landsberg erecta)の懸濁培養細胞を用いた。細胞周期を同調化するため、アフィディコリンによって細胞周期のG1/S期からの移行を止めた後、ペトリ皿内に細胞懸濁液およびアガロースを混合し、包埋された細胞をRPMを用いた疑似微小重力条件または対照1 G条件下でインキュベートした。免疫蛍光染色法および免疫電顕法による細胞の顕微鏡観察のために、細胞を4%(w/v)パラホルムアルデヒド(PFA)を含むリン酸緩衝生理食塩水をプレート表面上に添加し、1時間固定した後、アガロースを63℃のお湯に浸して溶かし、遠心分離を行うことで取り出した。フローサイトメトリーを用いたDNA量調査やRT-qPCRのためには、細胞をまず1%(w/v)PFAによって15分間穏やかに固定し、遠心分離を行い集めた後、液体窒素に浸し、直接凍結させた。
細胞周期各段階にある細胞の頻度分布は、DAPIによってDNAを染色された試料のフローサイトメトリー解析によって決定した。その結果、疑似微小重力条件下での細胞周期の進行速度の増加が確認された。また、免疫蛍光染色した単離核のフローサイトメトリー解析によって、G2/MのマーカーであるサイクリンB1タンパク質のレベルは、1 G条件と比べて、疑似微小重力下で有意に発現低下することが判明した。サイクリンB1の遺伝子発現に有意な変化は見られなかった。クロマチンの変化は、細胞周期の移行を駆動する。単離核を用い、転写されるメチル化DNA(5mdc)、および転写されないアセチル化ヒストンH4(AcH4)を免疫蛍光染色しフローサイトメトリー解析したところ疑似微小重力下で5mdcは増加し、AcH4は有意に低下した。DAPI蛍光に対するこれら抗体による蛍光染色強度を共焦点顕微鏡下で定量的に比較することによっても、このことは確認された。また、DNA methyltransferase遺伝子(MET1)は、疑似微小重力下で発現が増加した。次にDAPIによるクロマチン形成(凝縮)およびグローバルな転写活性マーカーとしてRNAポリメラーゼII抗体の染色を比べると、両者のパターンは似ていた。疑似微小重力下では、クロマチンの凝縮が増加していた。共焦点顕微鏡を用いたRNA pol IIの免疫蛍光シグナルを指標とした定量的な分析によっても、疑似微小重力下での転写の低下が示された。従って、これらの結果から、疑似微小重力下でのクロマチン凝縮促進と転写活性の低下の関連性が明白に裏付けられた。
リボソーム生合成活性の指標となる、必須核小体タンパク質であるヌクレオリンおよびフェブリラリンの、抗体を用いたフローサイトメトリーによる免疫蛍光シグナル定量、免疫電顕によるシグナル定量、核小体断面積の定量などにより、疑似微小重力下では、特にG2/M期の間にリボソーム生合成の速度が低下することも示唆された。
興味を持たれた方はぜひご参加ください 澤田 稜太