2018年度後期 第7回 細胞生物学セミナー

日時:124 () 17:00~ 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Exogenous Abscisic Acid and Gibberellic Acid Elicit Opposing Effects on Fusarium graminearum Infection in Wheat

Buhrow, L. M., Cram, D., Tulpan, D., Foroud, N. A., Loewen, M. C. (2016)

Phytopathology:106 (9), 986-996

外因性のアブシジン酸とジベレリン酸はコムギにおける赤かび病菌の感染に対して反対の作用を引き起こす

 

 赤かび病(FHB)を引き起こす Fusarium graminearumは宿主への定着・侵入およびかび毒の産出といった感染過程を持っている。このかび毒は穀物の品質や収量を低下させるだけでなく、人畜の健康にも影響を与える。赤かび病に耐性を持つ品種は、‘Sumai 3’とその派生品種しか開発されていない。化学殺菌剤の使用も調べられているが、FHBに感受性のある品種における市販殺菌剤については、効力の低下やムラが報告されている。植物ホルモンは、一般に病原菌に対する防御応答に関連しており、FHB抵抗性における役割を明らかにするために近年研究が進められている。FHBに対する防御応答におけるサリチル酸(SA)とジャスモン酸(JA)の役割は比較的研究が進んでいる一方で、それら以外の植物ホルモンの役割は不明な点が多い。

 本研究では、FHBに対するアブシシン酸(ABA), ジベレリン(GA), およびその他のFHBとの関連性が不明な植物ホルモンの役割を解明することを目的として以下の実験を行った。まず、耐性品種であるSumai 3および感受性品種である‘Fielder’においてF.graminearum感染後期におけるFusarium誘導性の内性植物ホルモンの含量を評価した。それぞれの品種の穂にF.graminearumの胞子懸濁液を接種し、感染後14日目に植物ホルモン含量の定量を行った。その結果、Mock処理においてSumai 3ABAおよびその代謝産物, SA, JAおよびJA-イソロイシンの量はFielder2倍の値を示した。また、Sumai 3はサイトカイニン生合成前駆体の値が低く、代謝産物の量が高いことから高いサイトカイニン代謝を示した。さらにSumai 3GA1の生合成前駆体であるGA19の高い蓄積が見られた一方で、GA4の生合成前駆体であるGA24は見られなかった。これは異なる内因性GA代謝経路がSumai 3において機能している可能性を示唆した。胞子懸濁液を接種した個体では、FielderにおいてABA, JAおよびそれぞれの代謝産物は増加したが、SAは減少した。一方、Sumai 3では、SAおよびABAの代謝経路においては同様の変化を示したが、JAおよび関連代謝産物の変化は見られなかった。

次に、ABA, IAA, GA, およびサイトカイニンの一種のゼアチン(Z)を投与し、F.graminearumが感染したFielderの穂における病徴の拡大, デオキシニバレノール(DON)含量に対する効果を14日間継時的に評価した。ABAFHBに感染した組織から隣接する穂への感染拡大率を増加させた。一方、GAは感染後7日目から10日目までの感染拡大率を減少させた。更に、GA処理個体ではDON含量の減少と収量の増加が見られた。IAAおよびZでは有意な変化は見られなかった。ABAおよびGA処理がF.graminearumの遺伝子の発現に与える影響を調べるためABAおよびGA処理個体のF.graminearumのアクチン遺伝子, トリコテセン生合成クラスター遺伝子tris4, 5, 11の発現量を定量した。その結果、感染後5日目でアクチンおよびtris遺伝子の発現は低下したが、ABA処理個体では大きな変化はなかった。F.graminearumのアクチン遺伝子およびtris遺伝子の発現の低下は、FHBの感染拡大率の減少と一致していた。tris遺伝子以外のFHBの病原性または感染関連遺伝子の発現を調べるため1.0 mM ABAまたはGA存在下/非存在下におけるF.graminearum感染後24時間の穂においてF.graminearumのトランスクリプトームを評価した。その結果、ABA処理個体でグルコシターゼ、加水分解酵素、細胞骨格再編成に関連する遺伝子発現が誘導された。一方、GA処理個体では窒素代謝に関係する遺伝子の発現が抑制され、ヌクレオチターゼが誘導された。

最後に、殺菌剤PBZGAの同時処理が効果的にF.graminearumの病原性を低下させるか調べるためFielderの穂に胞子懸濁液とGA, PBZ, GA+PBZを投与した。その結果、感染後7日目における病徴の拡大をGAまたはPBZのみの場合と比較してGA+PBZはより減少させた。また、GA+PBZ処理はFielderの穂におけるDON含量の減少と収量の増加が見られた。

本研究の結果から、ABAF.graminearumの遺伝子の発現を促進することでFHBの感染初期段階における感染拡大を促進させる一方で、GAF.graminearumの窒素代謝遺伝子の発現を抑制することで病原性を低下させることが示唆された。また、GAPBZの同時処理がFHBの病徴を抑制する可能性を示した。         

興味を持たれた方はぜひご参加ください.  池田 大志