2018 年度後期 第 8 回 細胞生物学セミナー

日時: 12 月 21 日 (金) 17:00~  場所: 総合研究棟 6 階クリエーションルーム

Direct comparison of MRI and X-ray CT technologies for 3D imaging of root systems in soil:
potential and challenges for root trait quantification

Metzner, R., Eggert, A., van Dusschoten, D., Pflugfelder, D.,
Gerth, S., Schurr, U., Uhlmann, N., Jahnke, S. (2015)

Plant Methods, 11: 17

土壌中の根系の三次元的なイメージングにおける MRI と X 線 CT 技術の直接的な比較:
根の性質の定量化の可能性と課題

植物の根は,土壌中の探索や養水分の吸収に不可欠であり,植物の成長に大きな影響をもたらす. 根系の発達と土壌との相互作用の理解には,不透明な土壌中で根を三次元的に可視化し定量する手法が必要となる. 三次元的かつ非侵襲的な観察法として,これまでに X 線コンピュータートモグラフィー (CT) や磁気共鳴画像法 (MRI) が用いられてきた. これらの手法は物理学的な原理が異なるため,適用時にそれぞれ異なる課題が生じる. したがって,それぞれの手法で同じサンプルを解析,比較することは,特定の研究でより適した手法を決定する上で有用である. また,これまでに多く検討されてきた土壌の種類や水分量だけでなく,栽培に用いるポットのサイズも,根系の発達や実験デザインにおいて重要なパラメーターとなる. 本研究では,異なるサイズのポット毎に,X 線 CT と MRI によるイメージングを同じ植物試料に適用し,土壌中の根系の可視化,根系のセグメンテーション,および根長の測定について評価と比較を行った.

植物材料として,インゲンマメ (Phaseolus vulgaris L. ‘Shiny Fardenlosa’) を用いた. 強磁性の粒子を取り除いた農業用地の表土と粗砂を 1:9 (v/v) の割合で混合した土を充填した,内径 34 mm, 56 mm, 81 mm の 3 つのサイズのポリ塩化ビニル製のポットに播種し,明期 16 時間 (20℃), 暗期 8 時間 (16℃) のサイクルでグロースチャンバー内で栽培した.X 線 CT 撮影には,フラウンホーファー研究機構・集積回路研究所の X 線技術開発センターにおいて,X 線管とフラットパネルディテクターを用い,ポットの内径に応じて 28~49.5 µm/voxel の解像度で投影像を取得し,2×2 でビニングを行った. 根のセグメンテーションでは,根が取りうるボクセル値(グレー値)が根の太さにより異なり広範となるため,根の大きさ毎に閾値の範囲を大中小に分割して二値化処理を行い,3 つのボリュームデータを得た. それぞれのボリュームは,土や空気,水などの,根ではない部分を除去するため,連続している物体をラベリングし,サイズが小さく,真球度が高い物体を除去したのち,再び 1 つのボリュームに統合し,クロージング (膨張と侵食) 処理を行った. MRI 撮影には,勾配磁場コイルを備えた垂直ボアの磁石でスピンエコー法を用いて,垂直方向に 1,000 µm/voxel, 水平方向はポットの内径に応じて 333~521 µm/voxel の解像度で MRI 画像を得た. 画像は MRI シグナルの単純な二値化で,根をセグメンテーションした. それぞれの手法で得られた像を重ね合わせ,セグメンテーションされた根から手動で選択したシュートまでのパスを,幾何学的な長さとボクセル値から計算することで,根長を測定した. これらの手法で観察した根は,土を洗い流し,WinRHIZO を用いてスキャンと解析を行った. その結果,最も解像度が高い 34 mm 径のポットでは,いずれの手法でも似た根系の像が得られ,根長はほぼ同じだったが,CT ではより細い根が見られた. より解像度が低い 56 mm 径のポットでは MRI と CT の間で像に明確な差が見られ,MRI でより多くの個根が検出され,根長が長くなったが,一部の箇所では CT のみで細い根が確認された. 最も解像度が低い 81 mm 径のポットでは,CT で確認できなかった側根が MRI では見られ,MRI でより多くの根が検出された. MRI は,CT と比較して大きいポットによる空間分解能の低下の影響を受けにくく,より後期の発達ステージのような,規模が大きい根系を見るのに適していた. 一方で,CT は空間分解能が高いため,特に規模が小さい根系では根の直径のような,より詳細な情報を得られた.

X 線 CT と MRI ではいずれも根系の発達を良好に観察でき,それぞれ相補的な情報が得られる. これら 2 つの手法を組み合わせることで,CT による土壌構造の可視化と,MRI による水分含有量の測定によって,根と土壌の相互作用に関わる問題に対処でき,異なる土壌構造や水分が変化する場合の根系の特性の解析の可能性を広げることができる.