2019年度前期 第1回 細胞生物学セミナー

日時:49日(火)17:00~ 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Genome-wide analysis of small secreted cysteine-rich proteins identifies candidate effector proteins potentially involved in Fusarium graminearum-wheat interactions

Lu, S and Edwards, C. M (2016)

Phytopathology 106:166-176

低分子システインリッチ分泌タンパク質の全ゲノム解析は

Fusarium graminearumと小麦間の相互作用に関係するエフェクタータンパク質の候補を同定する

 

 真菌の病原体の多くが植物体に感染する際に低分子の二次代謝産物またはタンパク質を産生および分泌する. その分泌物の一部は植物体に作用し, 病原性決定因子として働くことが知られておりエフェクターと呼ばれている. エフェクターは生体栄養性, 半生体栄養性,殺傷性病原体を含む多くの子嚢菌類で同定されている. これまでに同定された子嚢菌類のエフェクターはサイズが200アミノ酸以下で比較的小さく, 多量のシステインを含んでいる. このため低分子システインリッチ分泌タンパク質 (SSCPs) , 真菌のエフェクターにおいて共通のタンパク質として知られている. 赤かび病の主要な病原菌であるFusarium graminearum, 宿主細胞を殺す前に植物体内で成長する半生体栄養性病原体である. これまで赤かび病に対する量的形質遺伝子座を介した耐性が報告されているが,  F. graminearumと小麦間における遺伝子の相互作用は確認されていない. また, いくつかの病原性因子は調べられているがSSCPについて詳細な機能分析は行われていない. 本研究ではF. graminearumのゲノムにコードされているSSCPの広域的な解析とナノスケール液体クロマトグラフィータンデム質量分析 (nanoLC-MS/MS) によるSSCPの同定を行った. 全長250アミノ酸未満の合計3946個のタンパク質を調べたところ, 10%N末端シグナルペプチドを含むことがわかった. これらのうち200アミノ酸以下でシステインを2%以上含むという基準に基づいて調べると, F. graminearumのゲノムには190個のSSCPが存在すると予想された. 培地内の分泌物のnanoLC-MS/MSの結果, 25個のSSCPが病原体外のタンパク質であり、全SSCPの内, 少なくとも13%は病原体から産生および分泌されたことが示唆された. また, シークエンス解析の結果, 17個のSSCPにおいて, トマト葉かび病菌であるCladosporium fulvumが産生するエフェクターとして知られているEcp2にホモログな2つの配列を含む機能的な領域が保存されていることが示唆された. F. graminearumを感受性のあるコムギに感染させ, 感染後4, 12, 24, 72 h, 8, 14 days7時点でそれぞれmRNAを単離し, シークエンス解析で得られた17個のSSCPnanoLC-MS/MSで得られた22個のSSCPのタンパク質についてRT - PCRを行った. その結果, 34個のSSCPの異なる発現パターンが植物体内で検出された. 残りの5個のSSCP, どのポイントでも検出されなかったことから一部のSSCPは赤かび病に関係していないことが示唆された. 検出されたSSCPの中には発現の増加がポイントによって異なるタンパク質が存在していた. このうち少なくとも15個のSSCPが植物体内での発現が増加し, そのうち半分以上が病原菌接種後24 hで著しく発現が増加していた. F. graminearumは半生体栄養性病原体であることから, これらのタンパク質の発現の増加が生体栄養性の段階から殺生性の段階へ移行する際に重要な役割を果たしている可能性が示唆された. さらに発現が増加した15個のSSCPF.graminearumの病原性に直接的または間接的に関係している機能的な配列を含むことが示唆された. 本研究において, F.graminearumのゲノムにコードされているSSCPのうち, 病原性に関係する可能性のある15個のエフェクターを同定した. これらのエフェクターについて研究を進めることでF. graminearumの新たな病原性因子または毒性因子の発見や赤かび病に対する耐性の分子機構の解明につながることが期待される.

 興味を持たれた方はぜひご参加ください.  池田 大志