2019年度前期 第3回 細胞生物学セミナー

日時:529日(火)17:00~ 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Targeting the pattern-triggered immunity pathway to enhance resistance to Fusarium graminearum

Sarowar, S., Alam, T. S., Makandar, R., Lee, H., Trick, N. H., Dong, Y., Shah, J. (2019)

Molecular Plant Pathology 20 (5) :626 - 640

Fusarium graminearumに対する耐性を強化するためのパターン誘導性免疫経路のターゲティング

 ムギ類赤かび病菌 (Fusarium graminearum) , コムギ(Triticum aestivum)およびオオムギ(Hordeum vulgare)において, ムギ類赤かび病や苗立枯病の原因となる植物病原体である. ムギ類赤かび病は, 人畜の健康に影響を与えるかび毒を産出し, 穀類の収量と品質を低下させる重要病害であるので, この病害の防除のためのターゲットとなる遺伝子およびメカニズムを同定する必要がある. ムギ類赤かび病菌に対する単一遺伝子による耐性は見つかっていないが, これまでにサリチル酸 (SA) のシグナル伝達がムギ類赤かび病に対する耐性を強化することが報告されている. また, パターン誘導性免疫 (PTI) , Fusarium属病原菌に対して病害抵抗性を促進する機構として一般的に知られている. PTI宿主の細胞膜に存在するパターン認識受容体 (PPRs) が細菌の鞭毛タンパク質であるフラジェリンや糸状菌の細胞壁成分であるキチンなどを含むmicrobe-associated molecular patterns (MAMPs) を検出することで誘導される. しかし, ムギ類赤かび病菌の感染においてPTI経路が関与しているか否かは不明な点が多い. そこで本研究は, PTI経路がムギ類赤かび病菌に対する耐性の強化のためのターゲットとなり得るか否かを明らかにすることを目的として行った.

本研究では, 実験材料としてムギ類赤かび病菌に罹病性のあるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)と春コムギ品種`Bobwhite′を用いた. PTI経路に似たメカニズムを誘導するか調べるために, シロイヌナズナの葉にムギ類赤かび病菌を接種し, PTI経路の分子マーカーであるWRKY29の発現をRT-PCRで調べた. その結果, フラジェリン由来のペプチドであるflg22を処理した葉とムギ類赤かび病菌を接種した葉でWRKY29 の発現が増加した. また, SAシグナルのマーカーとしてPR-1の発現を調べた結果, 同じくflg22とムギ類赤かび病菌接種後の葉において増加した. このことから, シロイヌナズナがPTIに似た機構を活性化させることでムギ類赤かび病菌の感染に応答していることが示唆された.     

flg22の接種前処理がムギ類赤かび病菌に対する耐性を強化できるか調べるために, flg22を処理して24時間後の葉にムギ類赤かび病菌を接種し, 接種後5日目の病徴の重症度を評価した. その結果, flg22を前処理した葉は, 無処理の葉に比べて病徴の重症化が抑制された. さらに, PR-1C-末端にflg22を発現するように作製したPR-1-flg22発現体を用いて, ムギ類赤かび病菌に対する耐性を調べた結果, PR-1-flg22発現体の葉では病徴の重症化が抑制された. この結果から, flg22誘導性の機構が赤かび病菌に対する耐性を強化したことが示された. 次に, コムギにおけるflg22処理がムギ類赤かび病に対する耐性を強化するか調べた. `Bobwhite′の穂にflg22を処理した後, ムギ類赤かび病菌を接種した結果, flg22処理個体は無処理個体に比べ, 感染した穂の割合が低かった. このことから, シロイヌナズナとコムギにおけるムギ類赤かび病菌に対する耐性の強化にPTI経路が重要であることが示された. SAシグナル伝達がflg22誘導性の耐性に重要であるか調べるためにSA非感受性変異体npr1においてflg22処理の影響を調べた結果, npr1変異体はWTに比べ病徴の重症化が促進され, ムギ類赤かび病菌に対する耐性が低下していた. このことから, flg22誘導性のPTI経路は, SAシグナルの伝達が必要であることが確認された.加えて, npr1変異体と同様にwrky29変異体で重症化が促進されていたことからムギ類赤かび病に対する耐性においてNPR1WRKY29が重要であることが示された.

コムギにおいてWRKY29を恒常的に発現するUbi:WRKY29形質転換体を作製し, 赤かび病菌に対する耐性を評価した結果, Ubi:WRKY29形質転換体は, 対照品種に比べ病徴の進行, 菌増殖, デオキシニバレノールの蓄積が抑制されており, 赤かび病菌に対する耐性を示した. さらに, Ubi:WRKY29形質転換体は, 苗立枯病に対しても高い抵抗性を示した.

本研究の結果から, PTI経路はコムギにおけるムギ類赤かび病の防除のためのターゲットとなると結論づけた.

興味を持たれた方はぜひご参加ください.  池田 大志