2019年度前期 第5回 細胞生物学セミナー

日時:79日(火)1600〜 場所:総合研究棟6Fクリエーションルーム

Purification and Characterization of Novel Microtubule-Associated Proteins from Arabidopsis Cell Suspension Cultures

Hamada, T., Nagasaki-Takeuchi, N., Kato, T., Fujiwara, M., Sonobe, S., Fukao, Y., and Hashimoto, T. (2013

Plant Physiology 163:1804–1816

シロイヌナズナ懸濁培養細胞の新奇の微小管結合タンパク質(MAP)の精製と解析

 

 植物の微小管(microtubules,MTs)は植物の細胞骨格の主な構成要素で,細胞の分裂や形態,細胞内の組織や輸送に複雑に関与する.多彩な細胞機能を果たすための微小管の能力は,その活発なポリマー性質に依存し,個々の微小管は末端のチューブリンサブユニットの素早い重合と脱重合によって,伸長と短縮を繰り返す.多数のタンパク質が,チューブリンサブユニットと構築された微小管との動的平衡を調節しており,隣接する2つの微小管や微小管とその他の細胞構成要素との間の相互作用を促進する.微小管結合タンパク質(Microtubule-associated proteinsMAPs)は微小管に結合し,それらの動態や安定性,機構を調節する.植物の全てのMAPを同定することは,微小管の多様な配向がどのように決定されるのかや,微小管の機能についての理解を大きく前進させるだろう.しかしながら,植物のMAPのプロテオミクス解析の研究はわずかである.

 本論文において,我々はシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の懸濁培養細胞より作製したミニプロトプラストからMAPを含む分画を精製し,LC-MS/MS法を用いることで,数十種類もの未解析のタンパク質と,シロイヌナズナのキネシンやMAPを含む既知の727のタンパク質を発見した.機能が知られていない12のタンパク質をGFPで標識し、植物細胞内で一過発現させ,局在を調べた.そのうち6種類のタンパク質が,実際に植物体の表層微小管と共局在することを,微小管を標識するtagRFP-MAP4と共に一過発現させることによって示した.我々はさらに,BASIC PROLINE-RICH PROTEIN1BPP1)と呼ばれるMAP1つを解析した.GFPで標識したBPP1は,直接微小管に結合しているかは不明だが,表層微小管と共局在した.また,PPBや紡錘体,フラグモプラストといった細胞分裂の際の微小管構造もBPP1-GFPで標識された.BPP1固有の塩基性領域を除いたアミノ酸配列にGFPを結合させたものを,tagRFP-MAP4と共に一過発現させると,タンパク質の断片が細胞質に局在したのに対し,塩基性領域のみをGFPに結合させたものは,表層微小管に安定的に局在した.このことから,BPPの塩基性領域は,微小管結合活性の主な要因であると考えられる.このBPP1またはBPP1-GFPを,シロイヌナズナの芽生えにおいて過剰発現させると,黄化芽生えや葉柄において,表皮細胞の長軸方向でわずかに右向きのらせん状のねじれが見られ,その結果として子葉と若葉の配置が変化した.BPP1-GFPで標識した微小管の配向が細胞の長軸を横断するものであったことと,BPP1-GFPが結合した微小管はオリザリン(微小管脱重合剤)の処理に対する抵抗性を示したことから,BPP1-GFPの過剰発現は微小管を安定化し,微小管の配向を変化させ,その結果胚軸をねじれさせたと考えられる.

 本研究において,微小管と共精製することで得られたタンパク質の大多数は,おそらく微小管に対してかなりの親和性を持ち,微小管に直接結合するタンパク質複合体の一部となるか,細胞小器官や微小管と共精製される細胞成分に結合すると考えられる.我々のMAPプロテオミクスデータベースに含まれる何十もの未解析のタンパク質は,未知の植物MAPも多く含んでいるはずである.このデータセットは,植物微小管関連の研究に将来的に役立つだろう.

興味を持たれた方はぜひご参加ください. 山ア 優香