2019年度前期 第7回 細胞生物学セミナー
日時:7月16日(火)17:00〜 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム
The ER‑localized aquaporin SIP2;1 is involved
in pollen germination and pollen tube elongation in Arabidopsis thaliana
Sato, R., Maeshima, M. (2019)
Plant Mol. Biol. 100:335-349
シロイヌナズナの小胞体局在性アクアポリンSIP2;1は、花粉発芽および花粉管伸長に関与する
アクアポリンは、水と低分子中性基質の選択的輸送を通じて多面的な役割を果たす。主な植物のアクアポリンは、細胞膜内在性タンパク質、液胞膜内在性タンパク質、ノデュリン26様内在性タンパク質、低分子および塩基性内在性タンパク質(SIPs)の4つのタンパク質ファミリーに細分される。SIPsの生理学的役割と基質は不明なままである。ここでは、シロイヌナズナアクアポリンのうち小胞体(ER)に局在するSIPsである、SIP1;1、SIP1;2、およびSIP2;1の生理学的役割に焦点を当てた。
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana (L.) Heynh. Col-0株)の野生型と、sip1;1、sip1:2、sip2;1ノックアウト変異体をそれぞれ3回以上戻し交雑し、各系統から得られたF3ホモ接合種子を生理学的実験に使用した。sip1;1、sip1;2およびsip2;1の栄養成長および全体の形態を調べたところ、野生型と比較して生重量、相対含水量、およびシュートおよび葉の形態に有意差は見られなかった。生殖生長を観察すると、sip1;1とsip1;2は通常の長角果を産生したが、sip2;1の長角果は野生型と比較して有意に短く、種子生産は野生型の63%にすぎなかった。これは、野生型とsip2;1の交配において、sip2;1が父系の場合にのみ見られた。またqPCRの結果、SIP2;1のmRNAレベルは花粉において最も高かったため、花粉および花粉管におけるSIP2;1発現が正常な長角果の発育にとって重要であることを示している。次にsip2;1の花粉の発芽率を定量した結果、sip2;1の発芽率は野生型の60%であった。この発芽率の低下は、相補系統において明らかに回復した。花粉発芽率の低下が花粉の生存率に起因するかを調べるため、fluorescein diacetate (FDA)およびヨウ化プロビジウム(PI)で染色した。生きている花粉はFDAの緑色蛍光を示し、死んでいる花粉はPIで赤く染色される。この染色の結果野生型およびsip2;1の両方で高い生存率が確認され、sip2;1の花粉発芽率の低下は、低い花粉生存率によるものでないことが示された。次にin vivoでの花粉管伸長を観察した。実験の1日前に葯を取り除いた野生型またはsip2;1の花の柱頭に、野生型またはsip2;1の花粉を付着させ、4つの組み合わせを調べた。その結果、sip2;1の花粉管は野生型およびsip2;1のいずれの柱頭に着けた場合でも、子房の底部に達しなかった。対照的に、野生型の花粉管は野生型およびsip2;1のいずれの柱頭に付けた場合でも、子房の底部まで達した。前者の花粉管長の減少は、相補株cSIP2;1#1およびcSIP2;1#2において顕著に回復した。そして長角果を上部、中部、下部の3領域に分け、sip2;1の種子数を確認したところ、それぞれ野生型の81%、78%、28%であった。この下部領域における種子数の低下は、sip2;1の不完全な花粉管伸長と矛盾しない。二量体化による人工産物を生じない単量体化GFPをつないだmGFP-SIP2;1をsip2;1に形質転換し、伸長中の花粉管におけるSIPの発現パターンと細胞内局在を調べた。mGFP-SIP2;1の緑色蛍光は花粉管全体に均一に分布し、ER膜で観察された。ERマーカータンパク質であるRFP-HDELとも局在した。このSIPタンパク質のER膜局在から、SIPの機能喪失が、ERストレスを引き起こす可能性を推定し、いくつかのERストレス関連遺伝子の発現レベルを測定した。その結果、ERストレス誘導試薬dithiothreitolによる処理後に、BiP3、SAR1、ERdj3Aがsip2;1において有意に増加した。これは、SIP2;1が何らかの形でERストレスを回避していることを示唆する。AQP11などのアクアポリンは、H2O2細胞内シグナル伝達または解毒に関与していると考えられている。SIP2;1が花粉中の小胞体ストレスを軽減するために小胞体からの活性酸素種の除去に寄与する可能性がある。結論として、本研究は、SIP2;1が花粉の正常な発芽、花粉管の伸長、および胚珠における効率的な受精に不可欠であることを示す。 興味を持たれた方はぜひご参加ください 澤田 稜太