2019年度前期　第8回　細胞生物学セミナー

日時 : 7月23日(火)17：00～　場所 : 総合研究棟6階クリエーションルーム

Salinity stress increases secondary metabolites and enzyme activity in safflower

Zhao, G., Han, Y., Sun, X., Li, S., Shi, Q., Wang, C. (2015)

Ind. Crops. Prod 64: 175-181. Doi 10.1016/j.indcrop.2014.10.058

塩分ストレスはベニバナの二次代謝産物と酵素活性を増加させる

　土壌塩分は世界中の作物生産に深刻な影響を与える非生物的ストレスである。ベニバナは油糧種子として用いられるだけでなく、その花はいくつかの慢性疾患に対して多くの薬効成分を持っており、漢方薬に広く使われている。ベニバナは世界中で栽培されており、塩分ストレスに比較的強いことも報告されているが、その生理学的適応の仕組みはまだ完全には解明されていない。ベニバナが塩分ストレスに適応するメカニズムを知るため、本研究では、塩分ストレス下におけるベニバナの成長、光合成、抗酸化酵素、浸透と代謝産物の変化を評価した。

　ベニバナ(Carthamus tinctorius L. var. spinosus Kitam ‘Space-1’)種子を滅菌後、ガラスペトリ皿を用いて暗所で発芽させ、苗を生長させた。4枚目の葉が現れたとき、外観が一致した16本の苗木を選び、1/2濃度のホーグランド溶液に移した。2週間齢からNaClの濃度が50、100、150 mMに達するまで濃度を徐々に高めて塩分ストレスにさらし、処理開始から30日後に回収した。本実験では生長分析、イオン濃度分析、光合成色素の測定、抗酸化酵素分析、可溶性糖およびタンパク質含量の測定、総フラボノイド分析を行った。ベニバナの草丈および根の長さは、50、100 mM処理においてほとんど変化しなかったが、150 mMでは有意に減少した。また、濃度が高くなるにつれて生重量は減少した。しかしながら、乾燥重量では150 mM処理を除いて塩分ストレスによる影響を受けなかった。同様に、相対成長速度の有意な減少は150 mMの処理においてのみ観察された。さらに、葉の相対含水量は濃度の増加と共に減少した。これらの結果は中程度の耐塩性作物であると考えられているアメリカの品種についての報告を支持した。ベニバナの器官のNa⁺濃度は有意に増加した。K⁺濃度は50、100 mMでは葉とシュートで変化しなかった。これはイオン恒常性が維持されたことを示唆している。Ca²⁺濃度は葉とシュートでほとんど変化しなかったが、根では増加した。この結果は塩分ストレス下で根に蓄積された大量のCa²⁺が根のNa⁺の減少、シュートのK⁺の増加、Na⁺に対するK⁺の選択的吸収と輸送能力を高めることに寄与していることを示唆する。塩分ストレスによってクロロフィルa、bおよび総クロロフィル含有量が有意に減少した一方、総カロチノイド含有量は影響を受けなかった。高い塩分濃度(150 mM)ではベニバナのクロロフィルa、bは有意に減少することは先行研究で示されており本研究と一致したが、低濃度(100 mM以下)の塩分ストレス下では他の植物種では光合成がほぼ変化しないか、あるいは増加するという先行研究の報告とは異なった。Superoxide dismutase活性は濃度依存的に有意な増加を示し、catalase活性は50 mMにおいて有意な増加を示した。peroxidase活性は濃度依存的に増加した。第二鉄を還元する能力としての抗酸化活性は塩分ストレスによって有意に増加したが、各濃度間での差はわずかだった。他の作物でも塩分ストレスに対する高い抗酸化性が報告されているように、抗酸化酵素活性とベニバナの耐塩性にも明確な関係があることがわかった。ベニバナの葉の可溶性糖とタンパク質の含有量は塩分ストレスによって有意に増加した。これは可溶性糖と浸透圧調整物質が浸透圧調整において重要な役割を果たすことを示唆した。ベニバナの葉の重要な薬効成分であるフラボノイドは塩分ストレス下で有意に増加した。これは適度な塩分がベニバナの葉において、より高いフラボノイド収量をもたらすことを意味した。塩処理は二次代謝産物の原料としてベニバナを安定させるために、役立つかもしれない。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。　谷畑　昂士郎