2019年度前期 第1回 細胞生物学セミナー

日時:1029日(火)16:00〜 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Auxin homeostasis in Arabidopsis ovules is anther-dependent

at maturation and changes dynamically upon fertilization

Larsson, E., Vivian-Smith, A., Offringa, R., Sundberg, E. (2017)

Front Plant Sci: 8:1735

シロイヌナズナの胚珠におけるオーキシン恒常性は胚珠成熟時には葯依存的であり受精時に動的に変化する。

 

 植物ホルモンであるオーキシンは、雄性および雌性の生殖器官の両方の発達を制御する。さらに、オーキシンは種子および果実の発生および発達において重要な役割を果たす。オーキシン応答は、受精直後に胚珠で検出することができ、この蓄積は胚珠から種子へ、および雌蕊から果実への発達に必須である。しかし、胚珠発達の最終段階におけるオーキシンの役割、および受精後の胚珠において観察された応答につながるオーキシンの供給源は依然として分かっていない。本研究では、従来のDR5オーキシンセンサーに代わる、新しいR2D2センサーを用いて、開花前、開花期、および受精直後のステージの、シロイヌナズナの胚珠におけるオーキシン動態を特徴付けた。さらに、オーキシン生合成および結合型オーキシンを生成する遺伝子およびオーキシン輸送タンパク質の発現を、同じ発達段階においてマッピングした。

 R2D2レポーターでは、いずれも核移行シグナルを付けた、オーキシンレベルが低いときにのみ発現するDII-Venus()とオーキシンレベルに関係なく発現するmDII-Tomato(マゼンタ)を併せ持ち、両者の蛍光比を計測することでオーキシンレベルを推定できる。受精前後の胚珠のオーキシン動態を観察するために、R2D2レポーターの発現を分析した結果、雌性配偶体の発達段階における8核期(FG(Female Gametophyte)5)で、雄蕊の発生が停止すると、DII-VenusmDII-Tomatoの両方が胚珠の大部分に蓄積した。これは、胚珠におけるオーキシンの蓄積が開花直前に比較的制限されることを意味する。ただし、部分的には珠柄の中心部にある3つの細胞列および合点やendotheliumのいくつかの細胞はDII発現が少なく、オーキシンレベルの上昇を示していた。オーキシン生合成レポーターであるYUC1pron3xGFPおよびYUC6proeGFP-GUSが、珠柄の中心組織で活性を示し、YUC1およびYUC6は、オーキシン上昇に寄与する可能性を示唆したが、DIIレベルの低下は検出できなかった。合成部位からの極性オーキシン輸送(PAT)による可能性が考えられたため、オーキシン流出キャリアであるPINFORMEDPIN)ファミリーの発現と細胞内局在を調べた。その結果、珠柄における3つの細胞列内にPIN1PIN3が局在し、開花前の胚珠において生産されたオーキシンが珠柄における特定の細胞列を介して輸送されることが示唆された。極核が融合し7細胞となったFG6期におけるR2D2センサーの発現は、卵細胞におけるDIIシグナルの減少を除いて、FG5期と変わらなかった。未授精の胚珠におけるPINR2D2局在を知るため、開花前に雄蕊を除去したFG7期(仮足細胞が消滅した状態)で調べたところ、FG6期からR2D2発現パターンは変化しなかったが、すべてのこれらの細胞列において、珠柄のPIN1PIN3およびPIN6が細胞膜に多く局在していた。これらが発達によるのか除雄によるのかを確かめるため、PINレポーターと交雑させた雄性不稔系統eceriferum6-2(野生型により受精できる)を調べた結果、PIN1PIN6FG7期の珠柄の細胞内に取り込まれていた。つまり正常な発達では珠柄および特に未熟な師部を介したオーキシンの搬出が抑制されるが、除雄によってオーキシン排出がおこることを示唆している。また、除雄の代わりにcer6-2系統を使用して受粉のタイミングを制御し、受精後のオーキシンレポーター活性を分析した。受精直後、最初の接合子の細胞分裂の前に、DIIの蓄積はすべての胞子体組織で劇的に減少したが、分裂中の胚乳核では増加した。これは、受精直後にこれらの組織のオーキシンレベルが急速に増加する可能性を示している。結合型オーキシンを生成する酵素遺伝子のプロモーターはFG5では胚嚢で誘導されたが、受精後は珠柄の上部で誘導されていた。次にPINproPIN-GFPを発現するcer6-2植物に中央細胞と発達中の内乳核を可視化するFIS2proFIS2-GFPレポーターを導入した結果、受精がオーキシン輸送の流動の切り替えまたは変化を引き起こし、珠柄を介した胚珠からの排出が抑制され、分化する胚嚢の周りのオーキシンの拡散が促進されることが示唆された。同時に、オーキシンの不活性化も胚嚢で抑制されることで、おそらく胚および種子の発達に必要なオーキシンレベルを微調整していると考えられる。 

興味を持たれた方はぜひご参加ください。 澤田 稜太