2019年度後期 第2回 細胞生物学セミナー

日時 : 1029()1700~ 場所 : 総合研究棟6階クリエーションルーム

Water availability effects on plant growth, seed yield, seed quality in Cassia obtusifolia L., a medicinal plant

Xue, J., Zhou, S., Wang. W., Huo. L., Zhang, L., Fang, X., Yang, Z. (2018)

Agric. Water. Management 195: 104-113. Doi 10.1016/j.agwat.2017.10.002

薬用植物エビスグサの生長、種子収量、種子品質に対する水の利用可能量の影響

 

エビスグサ(Cassia obtusifolia L.)の種子は中国で視力の改善、便秘の緩和、高血圧や高脂血症を下げるために漢方薬や健康茶として広く使われている。エビスグサの需要は近年アジアで急速に増加しており、収量と品質の両方を改善するための栽培技術の開発に関心が寄せられている。水ストレスは一般に、農業における深刻な収量損失の原因と考えられているが、多くの研究から水ストレスにさらされた植物はより高い濃度の二次代謝産物を蓄積することが明らかになり、より良い品質の薬用植物がもたらされた。本研究では、様々な水の利用可能性(乾燥ストレス)の下でエビスグサの収量と品質の変動のメカニズムを解明することを目的とした。

ポット実験は青島大学薬学部の薬用植物園の温室で20134月から10月まで実施され、圃場実験は青島市嶗山薬用植物園で2014年の同時期に行われた。いずれも次のような実験条件であった。年間平均降水量は660.7 mm、年間平均計器蒸発量は1612.0 mm、年間平均気温は12.4℃、年間平均日照時間は2531.5 時間、年間平均相対湿度は71%であった。土壌は軽いロームで、圃場容水量は0.27 cm3 cm−3、永久しおれ点0.09 cm3 cm−3、有機物は12.70 g kg−1、窒素は253.06 mg kg−1、リンは63.00 mg kg−1、カリウムは109.89 mg kg−1であった。ポット実験では種子は選抜を行った後、95%エタノールで20分間滅菌し、蒸留水で洗浄した。各ポットに10粒播種し、発芽促進のため水道水を与えたところ、20日目に1ポットあたり3本の強い苗木になった。圃場実験では、種子を直接播種し、第3葉期に20個体/m2まで間引きした。灌漑用水は貯水池から汲み上げてろ過し、バルブで灌漑を制御した。圃場実験ではポリエチレンシートで雨を防いだ。ポット実験、圃場実験それぞれ50日目までの土壌水分含量は圃場容水量の100%とした。干ばつ処理として、ポット実験では51日から204日目までは土壌水分を圃場容水量の100%90%80%70%60%50%、または40%とした。圃場実験では51日から191日目まで100%85%70%55%40%とした。ポット実験では根とシュートの生重量と乾燥重量、圃場実験では植物体の乾燥重量を計測した。収穫した種子では100種子の重量を量り、シュートの総重量に対する種子乾燥重量比率(収穫指数)から種子収量を計算した。種子は一次代謝産物としてタンパク質含有量、二次代謝産物としてアントラキノン含有量を分析した。

強い干ばつ処理はエビスグサの草丈、生および乾燥重量、枝数、葉数を著しく減少させ、根/シュート比を増加させた。また、さや数、種子数、100種子の重さ、種子収量も著しく低下し、干ばつの影響を顕著に示した。しかし、弱い干ばつ処理(ポット実験での土壌水分90%~70%、圃場実験で85%~70%)は生長や種子収量をわずかに減少させた程度であり、特に土壌水分が70%の場合は、100%対照区も含めても収穫指数は最大となった。生長や種子収量の減少とは対照的に、エビスグサの種子品質は一次代謝産物と二次代謝産物で異なる傾向を示した。エビスグサの一次代謝産物である種子タンパク質の含有量と収量は干ばつストレスが強くなるにつれて徐々に減少した。エビスグサの二次代謝産物であるアントラキノンの含有量は弱い干ばつ処理(ポット実験で土壌水分70%)や中程度の干ばつ処理(ポット実験で土壌水分50%60%、圃場実験で55%)で増加した。しかし、アントラキノンの含量は弱い干ばつ処理(70%)で最大であった。植物の生長は主に一次代謝に基づき、植物の防御は主に二次代謝に基づいていると考えられ、植物の一次代謝と二次代謝の間にはトレードオフがあることが推測される。薬用植物の収量と品質の妥協点を決めるために、環境要因は一次代謝と二次代謝のトレードオフを調整するスイッチとして利用できることが示唆される。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。 谷畑 昂士郎