2019年度後期 第4回 細胞生物学セミナー
日時 : 11月26日(火)17:00~ 場所 : 総合研究棟6階クリエーションルーム
Physiological, transcriptional, and metabolic alterations in spaceflight-subjected Senna obtusifolia
Mao, R., Li, W., He, Z., Bai, Z., Xia, P., Liang, Z., Liu, Y. (2019)
Plant Physiology and Biochemistry 139: 33-43 Doi 10.1016/j.plaphy.2019.03.009
宇宙飛行したエビスグサの生理学的、転写、および代謝の特性の変化
エビスグサ(Senna obtusifolia (L.)H.S.Irwin et Barneby)は一年草で、温帯および亜熱帯地域に広く分布している。種子には有効成分アントラキノンが含まれており、目の疾患、便秘、高脂血症の治療のためアジアで使用されている。先行研究では、優れた品種を作り出すため作物の種子が宇宙へ運ばれた。宇宙飛行を用いた新しい品種の作出は、新しい機能遺伝子の同定を容易にするだけでなく、高収量高品質な品種の選択にも役に立つ可能性はある。しかし、宇宙飛行の薬用植物に関する研究はまだ少ない。より高い種子収量と二次代謝産物含有量を持つエビスグサの系統を選択するために宇宙飛行が行われた。本研究は、エビスグサの生理学的、転写および代謝の特性に対する宇宙飛行の影響を評価すること、農業形質、抗酸化酵素活性、二次代謝産物含有量の間の関係を調べること、より良いエビスグサ品種の育種の理論的基礎を示すことを目的とした。
2011年に5 gのエビスグサの種子が中国の衛星神舟8によって宇宙へ運ばれ、17日間の宇宙飛行後回収された。2012~2014の3年間の調査後、3つの宇宙飛行(SP)系統を選択した。3つのSP系統QC10、QC29、QC46と地上のコントロール(GC)系統は中国科学院土壌水保全研究所で2015年、2016年に栽培された。各系統を苗期(35 days after planting (DAP: 播種後日数))、発達期(55DAP)、芽期(75DAP)、花期(95DAP)、種子期(115DAP)で草丈と茎の幅を測定した。抗酸化酵素superoxide dismutase(SOD)、peroxidase(POD)、ascorbate peroxidase(APX)、catalase(CAT)、monodehydroascorbate reductase(MDHAR)を分析やプロリン含有量、過酸化水素含有量を測定した。種子に含まれる二次代謝産物の含有量はHPLCによって測定した。種子収量は各系統10個体を収穫し、測定した。
2016年はSP系統がGC系統に比べて草丈、茎の幅において有意に高かった。抗酸化酵素活性では、SP系統ではGC系統よりも、SOD、POD、CAT、APX 、MDHAR活性が大幅に向上した。また、115DAPのSP系統ではGC系統と比較してプロリン含有量が有意に増加した。SP系統は高い抗酸化活性示した一方、酸化ストレスの指標であるMalondialdehyde(MDA)含有量は低かった。過酸化水素はすべての系統において75DAPまでは減少パターン、その後増加パターンを示した。SP系統はGC系統と比較してSOD、POD、CAT、APXの遺伝子発現レベルは増加した。SP系統の種子収量はGC系統と比べて高かった。2016年の二次代謝産物の含有量は2015年よりも高く、アントラキノンのオーランチオオブツシンはQC29ではGC系統と比べて有意に高かった。農業形質、生理学的パラメーター、二次代謝産物含有量の関係を調べるため、ピアソン相関係数分析を行った。5つの抗酸化酵素活性は種子収量と正の相関を示し、オーランチオオブツシンの含有量はPODおよびAPX発現と有意な正の相関を示した。種子収量はアントラキノンのクリソファノール含有量と正の相関関係を示した。逆に、種子収量と過酸化水素含有量との間には有意な負の相関があった。クリソファノール含有量は過酸化水素含有量とMDA活性と負の相関を示した。
SP系統は抗酸化酵素活性、抗酸化酵素遺伝子、種子収量およびオーランチオオブツシン含有量の増加を示した。SP系統の優れた特性は、今後より良いエビスグサの品種の作出に利用することができる。
興味を持たれた方は是非ご参加ください。 谷畑 昂士郎