2019年度後期 第5回 細胞生物学セミナー

日時:123日(火)17:00~ 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Plant root tortuosity: an indicator of root path formation in soil with different composition and density

Popova, L., van Dusschoten, D., A. Nagel, K., Fiorani, F., Mazzolai, B. (2016)

Ann. Bot., 118, 685–698

異なる構成と密度をもつ土壌内での経路形成の指標としての植物の根の曲がり

植物の根は効率的に土壌内を貫通し, 植物体の繋留や水と栄養分の補給のために土壌を開拓することができる. 根の最適な経路を選択するために, 根端は土壌の機械的な抵抗の強さに応じて異なる応答をし, より抵抗の少ない経路に沿う方向へと伸長する. 本研究では土壌の物理的性質による根の応答の変化を, 伸長速度, 直径, 重力への応答, 屈曲といった成長パラメータの解析により調査した. 実験では, 混合砂「Mix」(粒子径1.4 mmの粗砂67%, 粗泥23%, 粘土4%)と砂質ローム「Loam」(細砂73%, ローム23%, 粘土4%からなるKaldenkirchenローム)の2つの土壌を用いて, 土壌の容積密度, , 層構造が異なる5つの処理区:Mix_low (容積密度1.52±0.02 g/l), Mix_midum (1.59±0.02 g/l), Mix_high (1.68±0.01 g/l), Loam_low (1.52±0.02 g/l), 上層がLoam (1.27±0.04 g/l)で下層がMix (1.48±0.02 g/l)の二層構造Bilayerを設定した. それぞれのポットにトウモロコシ(Zea mays L.)種子を4粒ずつ播種し, チャンバー内で土壌中の含水量を一定 (全体体積の約15%) に保ちながら, 播種後1日経過後からの6日間を実験期間として栽培を続けた. 成長中の根の形態を非侵襲的に三次元的に解析する手法として核磁気共鳴画像法 (MRI) を採用した. 実験期間中は毎日約1時間MRIによる計測を行い, スピンエコー法により根系のマルチスライス画像を取得した. MRIによる根の3次元データから伸長速度, 重力応答, 屈曲度の各パラメータを求めた. 伸長速度 (mm/h) は前回の計測時点からの根端位置の変化を経過時間で割って求めた. 重力応答は根の垂直方向の伸長に対する水平方向の伸長の比率 (水平/垂直成長比)を求めて評価した. 根の下向きの成長を評価するため, 初期位置から根端までの直線距離と主根長の比率 (深さ/根長比)を求めた. 曲がり具合の指標として, 大きな曲がりと小さな曲がりやコイル状の曲がりを区別できるsum of angle metric (SOAM)を計算した. 根の直径は実験期間終了後に根を回収し根端から1 cm基部側の1 cm長の領域で計測した. 得られた各成長パラメータや土壌の容積密度について, ポットごとの平均値でのピアソン相関係数分析により相関性を評価した. その結果, 土壌の圧縮レベルが高いMix_highではMix_lowと比較して伸長速度が50%減少し, 直径が15%増加した. 容積密度は同じで肌理が細かいLoam_lowではMix_lowに比べて伸長速度は減少したが, 直径は線形回帰からの予測値と実測値がそれぞれ1.05 vs. 1.05±0.13 mmで同程度だった. 土壌の容積密度と伸長速度, 直径の間には有意な相関関係が認められた. このことから, 圧縮による土壌の機械的抵抗性の上昇が根の伸長の減少や直径の増加を生じることが示唆された. さらに, 直径は容積密度にのみ依存し土壌の質は明瞭に影響しないことが示された. 根の重力応答については, 深さ/根長比と水平/垂直成長比の間に強い相関関係 (r = -0.99) が認められたことから, 垂直方向の伸長は下方向の成分となっており, 水平/垂直成長比が小さいほど重力応答が大きいといえる. Mix_lowと比べてMix_highでは水平/垂直成長比が約30%, SOAM10%増加し, 圧縮レベルが高いほど重力応答は減少することが示された. Loam_lowでは, Mix_lowと比べて水平/垂直成長比は減少し, SOAMはどのMixグループよりも低かった. これにより, 土壌の粒子サイズが重力応答を変化させることが示唆された. 水平/垂直成長比や深さ/根長比とSOAMの間にはそれぞれ有意な相関関係が見られ, 重力応答の減少と曲がりの増加との関連性が示された. Bilayerでは, 境界面を通過したあとの下層での伸長率は同条件のはずのMix_lowと比較して約30%減少し, 重力応答も減少した. さらに境界面を通過する際に曲がりに38%増加が見られた. このことから, 層構造の存在による急激な土壌の抵抗の変化が伸長率や重力応答を減少させることが示唆された. 以上の結果から, 土壌の圧縮だけでなく粒子サイズや層構造も土壌中の根の成長行動や重力応答に影響を及ぼすことが定量的に示された. さらに, 水平/垂直成長比や深さ/根長比とSOAMの間には相関がみられ,根の曲がりを示すSOAMが重力応答を評価する指標として根の生長を定量的に解析する上で有効であることが示された.

山浦遼平