2019年度後期 第6回 細胞生物学セミナー

日時:1210日(火)1600〜 場所:総合研究棟6Fクリエーションルーム

OsMTOPVIB is required for meiotic bipolar spindle assembly

Xue, Z., Liu, C., Shi, W., Miao, Y., Shen, Y., Tang, D., Li, Y., You, A., Xu, Y., Chong, K. and Cheng, Z. (2019

PNAS 116:15967-15972

OsMTOPVIBは減数分裂時の双極紡錘体の形成に必要である

 

 双極性の紡錘体の形成は,正常な染色体の分配に必須である.高等真核生物において,紡錘体微小管は中心体,中心体がない場合はクロマチンが仲介する経路によって形成される.このような紡錘体形成のメカニズムに関しては,マウスなどの動物細胞において研究が進んでいる.しかし,植物の減数分裂における双極紡錘体形成のメカニズムについては,未だ明らかにされていない.そこで,我々は植物の減数分裂双極紡錘体がどのようにして形成されるのか,特に核膜崩壊(nuclear envelope breakdownNEB)後における双極紡錘体の形成メカニズムについて明らかにすることを目的に研究を行った.

 本研究において,我々はイネ(Oriza sativa),トウモロコシ(Zea mays),シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana),トマト(Solanum lycopersicum)の微小管構造を,免疫蛍光染色法を用いて観察を行うことで,植物の双極紡錘体形成で鍵となるステップは中期Tにおける多極紡錘体から双極紡錘体への変化であるということを発見した.この観察では,前期Tの初期で微小管が細胞質を埋め,後半で微小管の束が生じ,ダイアキネシス期には核膜周辺にリング様の構造をつくった.NEBのあと,この構造は独立した微小管の束に分かれていき,一旦多極紡錘体を形成した後に後期Tの前には多極紡錘体は双極紡錘体に変わった.このことから,多極紡錘体から双極紡錘体へ変化することは単子葉植物と双子葉植物の両方で一般的なことであることが推測される.また,マウスやショウジョウバエ,アフリカツメガエル等の減数分裂における紡錘体形成はランダム方向の微小管形成を伴い,クロマチンが仲介する自己組織化と呼ばれる経路を通して双極性の配向が生じ,双極紡錘体が形成される.このことは,多極紡錘体から双極紡錘体が形成される過程が中心体の無い細胞においては一般的である可能性を示唆している.また,イネでDNAの二本鎖切断(double-strand breakDSB)に関与して組換えを生じさせることが知られているOsMTOPVIBの変異体OsmtopVIBでは減数分裂に異常が生じ,多極紡錘体が双極紡錘体に変化することができなかった一方で,その他のDSB発生に欠陥のある変異体(pair2Osspo11-1crc1)においては双極紡錘体が形成されたことから,OsMTOPVIBが双極紡錘体の形成に必要であること,双極紡錘体の形成はDSBに非依存的であることを明らかにした.さらに,セントロメア接着で重要な役割を持ち,イネの減数分裂時に1つの極から伸びる微小管の姉妹動原体への結合の形成に必要なOsREC8や,OsREC8OsMTOPVIBの二重変異体の微小管を免疫蛍光染色による観察を行った結果,組換えがない(DSBがない)状況においては姉妹動原体の二方向性が双極紡錘体の形成を促進していることを明らかにした.このことは,双極紡錘体の形成におけるOsMTOPVIBの機能がセントロメア接着によって制御されているということを示唆している.

 セントロメア接着の維持は減数分裂で特有のメカニズムを持っており,シュゴシン(SGO1)やタンパク質ホスファターゼ2APP2A)は真核生物の減数分裂においてセントロメア接着をセパラーゼによる分離から保護する.また,セントロメア接着は動原体と微小管の結合の安定性に依存することが知られている.セントロメア接着と,紡錘体形成におけるOsMTOPVIBの役割は明らかになっていないが,おそらくイネの減数分裂において,OsMTOPVIBはコヒーシンの保護と解離の両方に関与していると推測される.

興味を持たれた方はぜひご参加ください. 山ア 優香