2019年度前期 第8回 細胞生物学セミナー

日時:1217日(火)16:00〜 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Gene Regulatory Network for Tapetum Development in Arabidopsis thaliana

Li, D., Xue, J., Zhu, J., Yang, Z. (2017)

Front. Plant. Sci. : 8:1559

シロイヌナズナのタペート発達のための遺伝子調節ネットワーク

 

葯には4つの葯室があり、それぞれに生殖細胞を取り囲む4つの体細胞の層がある。タペートは生殖細胞に直接接触し、花粉の発達と花粉壁の形成に関わる主要な組織であり、その発達は高度に制御されている。タペート細胞は葯ステージ5で確認され、ステージ10でプログラム細胞死を経て、さらに花粉壁の発達のために内容物を放出する。 ステージ12で成熟した花粉が形成される。タペートの発達と花粉形成を調節するいくつかの転写因子が報告されている。 DYSFUNCTIONAL TAPETUM1DYT1)は、塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス(bHLH)転写因子をコードすると推定されている。 DYT1の欠陥は、タペートの早期空胞化と花粉の欠如をもたらす。 DEFECTIVE in TAPETAL DEVELOPMENT and FUNCTION1TDF1)は、R2R3 MYB転写因子をコードすると推定されている。 TDF1の欠陥により、シロイヌナズナとイネの両方で変則的な細胞分裂と花粉のない機能不全のタペートが生じる。ABORTED MICROSPORESAMS)は、bHLHファミリーの転写因子をコードする。 ams変異体は、葯ステージ7でタペートと小胞子の両方の変性を示す。 R2R3 MYB遺伝子ファミリーのメンバーでもあるAtMYB103 / MS188は、葯におけるタペートの発達、カロースの分解、エキシン形成に重要な役割を果たす。 myb103 / ms188変異体では、減数分裂後にタペートのプロトプラストが変則的に拡大した液胞をいくつか含み、異常なタペート発達を示す。ここでは、タペート発達に関わる遺伝的経路のDYT1-TDF1-AMS-MS188のそれぞれの下流遺伝子を、レーザーマイクロダイセクションとプレッシャーカタパルティングを使用して、シロイヌナズナのタペートのトランスクリプトーム解析を行った。

536のタペート遺伝子が上記の4つの転写因子すべての共通の下流遺伝子であり、これらの共通の下流遺伝子とは独立した数百の特異的遺伝子を制御することを発見した。下方制御されたタペート遺伝子は、各変異体dyt1tdf1間で81.5%、tdf1ams間で78%、amsms188間で65%と非常に類似していた。このことは、これらの転写因子が主にタペート発達のための下流の主要制御因子を介して機能することを示している。しかし、下流の遺伝子は花粉形成を回復することができないため、各転写因子は特定の機能を果たす必要がある。共通の制御遺伝子に加えて、238個のDYT1特異的遺伝子、226個のTDF1特異的遺伝子、289個のAMS特異的遺伝子が存在した。これら特異的遺伝子の同定は、制御因子の特定の機能を理解するのに役立つ。 dyt1変異体で下方制御された74の転写因子のうち、19DYT1特異的遺伝子、11TDF1特異的遺伝子、19AMS特異的遺伝子であった。これは、主要なターゲットに加えて、各因子がタペート発達のための他の転写因子を調節する可能性があることを示している。 E3ユビキチンリガーゼは、植物の発達中にタンパク質を分解することが報告されている。シロイヌナズナでは、E3リガーゼPUB4がタペート細胞の発達に関与していることが報告されている。 DYT1TDF1、およびAMSは、いくつかの特異的E3リガーゼを制御する。ams変異体ではタペート細胞が葯室を占めるように拡大されるため、AMSはタペートの発達に重要であり、このE3リガーゼタンパク質の分解を介してタペート細胞の運命を決定する可能性がある。多くの受容体キナーゼは、シロイヌナズナのタペートおよび花粉の発達における重要な制御因子であり、細胞間シグナル伝達がタペートおよび花粉の発達に重要であることを示唆している。 dyt1変異体で下方制御された26個の受容体キナーゼが見つかり、そのうち3個はDYT1特異的遺伝子、2個はTDF1特異的遺伝子、21個は共通遺伝子である。またRALFタイプのペプチドをコードする遺伝子は、共通の遺伝子であることがわかった。これらは、タペート細胞が異なる発達段階の間、細胞間コミュニケーションを維持することを示唆している。輸送において機能する遺伝子は、変異体間で差次的かつ共通に発現され、各因子が花粉発達のため、タペートの高度に秩序化された輸送システムを制御することが示唆される。タペート細胞は、花粉形成のために他の植物細胞と効率的に通信しながら、秩序立った発達と最終的にプログラム細胞死のために複雑な遺伝子調節ネットワークを展開させていると考えられる。

興味を持たれた方はぜひご参加ください。 澤田 稜太