2020 年度前期 第10回 細胞生物学セミナー

日時 7 14 16:30〜 場所ZOOM 開催

Abscisic acid-mediated modifications of radial apoplastic transport pathway

play a key role in cadmium uptake in hyperaccumulater Sedum alfredii

Tao, Q., Jupa, R., Liu, Y., Luo, J., Kovac, J., Li, B., Li, Q., Vu, K., Liang, Y.(2018)

Plant, Cell Environ. 42:1425-1440

アブシジン酸を介した放射状アポプラスト輸送経路の修正は,

カドミウム高集積植物 シナマンネングサのカドミウム取り込みに重要な役割を果たしている

 

 アブシジン酸(ABA)は植物の有害金属に対する抵抗性の基礎となる重要な植物ホルモンであるカドミウム(Cd)は植物の成長や人間の健康に有害な影響を及ぼすCd高集積植物は,Cdで汚染された土壌のファイトレメディエーションに大きな可能性を秘めているこれまでに,Cdの過剰蓄積の効率を決定するいくつかのプロセスについて,根における放射状輸送の促進,長距離輸送の促進,シュートにおける効果的な隔離と解毒などが報告されている放射状輸送は,表皮から中心柱へ移動するCdイオンの量を決定するため,地上器官におけるCdの蓄積に極めて重要である一般的に,イオンの放射状輸送経路として,シンプラスト系,経細胞系,アポプラスト系の3つの経路がある初期の文献の多くは,シンプラスト系と経細胞系がCd流入の唯一の経路であると指摘していたが,我々の研究では,Cdイオンの最大37%がアポプラスト経路を経由してSedum alfredii hance の高集積生態(HE)の木部に直接移動していたしかし,アポプラスト経路を修正するメカニズムは,S. alfrediiではまだ明らかにされていないそこで,HEと非高集積生態型(NHE)においてCdに誘起される内因性ABAの変化と,これらの変化がアポプラストバリア形成に及ぼす影響と,Cdの取り込みに及ぼす影響を評価した

 種子の発芽後4週間後,植物を最初に1/4 強度ホグランド栄養溶液に3 日間移し,その後は,1/2 強度溶液中で育成した植物は,昼を 14または10時間とする昼夜のサイクル(400μmol m-2 s-1の照度),26または20℃, 70%または85%の相対湿度で育成した2週間後,健康な植物を選択し,3週間の1倍強度溶液に移した最後に,0 , 5 , 25 μM Cd(NO )を与え 7日間育成したこれらのCd処理に加え,1μM ABA,または50μM Abamine (ABA合成阻害剤)の処理を行ったこれらの条件下で7日間培養した後,根の内因性ABA含量をABAイムノアッセイ検出キットを用いて決定した1-μM ABA 50-μM Abamine を外因的に処理しても,クロロシスや顕著な表現型の変化は認められなかったまた,Cdを含まない養液(Cd 0) 1 週間曝露した場合には,外生の ABA Abamine処理に関わらず HENHE の間で ABA 含量に有意な差は認められなかったしかし,Cd に曝露した場合には,HEと異なり,NHECd 濃度の上昇に非常に敏感に反応し,25μMCdに曝露した場合にはCd 0と比較してABA含量が約2.5倍に増加したCd 存在下での外生ABAまたはAbamine処理は,各対照区と比べ内生ABA含有量の〜120%の増加または40%の減少をもたらした

 次に, 根の先端から1 cmのセグメントは,乳酸ベルベリンとトルイジンブルーで染色し,蛍光顕微鏡と共焦点顕微鏡を用いて,カスパリー線(CS)を観察した また根の先端から1.5cmごとに断面を作製した 横断切片またはホールマウントにおいてスベリンラメラを観察したその結果, Cd 0では,ABA/abamine 処理に関わらず,NHE では HE に比べて根の先端にわずかに近い位置から CS が観察された  Cdに曝露した場合,根の先端からCSの形成位置までの距離は,NHEでは37倍に短縮されたが,HEではされなかったまた,ABA/Abamineのこの距離に対する効果は,いずれの生態型/Cd 濃度でもほとんど見られなかったしかし,この距離と根の ABA 含量との間には有意な負の相関が見られたまた,原生木部(XV)の形成はCSの形成に比べて早く完了しており, XV 形成位置とCS 形成位置の距離は HEと比較してNHEでは半分以上短くなったNHECdに曝露するとこの距離はとなり,その大きさはCd濃度の増加とともに増加したHEではこの距離に影響はなかったCd 0 での外生ABA 投与は, 両生態型においてこの距離の40%程度の増加をもたらした反対に, NHEではAbamine 存在下のCd 曝露によりこの距離の50%以上の減少が観察されたこの距離とABA含有量との間には,有意で正の線形相関があった Cd 0に曝露した両方の生態型では根の全長の40%未満でSL が形成していた(NHE の方が大きい) Cd 濃度に伴いNHE には SL が広く形成,Cd 25 では,根長の 84%にまで発達した対照的に,HEでは変化はわずかであったCSと比較して,外因性ABA/AbamineSLの発達に対する効果は顕著で,Cd 0 においては,ABAまたはAbamine処理した場合には,両生態型ともに根の先端から-34%近くまたは12%遠い位置でSLの沈着が開始したCd 25では,それぞれ根の先端から-39%近くまたは47%遠い位置でSLが開始したCSと同様に,根の長さの非SL部分と根のABA含有量の間には有意な負の相関があった

 アポプラスト輸送経路パターンを検出するために, Cd 25根の先端からの3mm長のセグメントを,アポプラストトレーサーとしての9542mM8-ヒドロキシピレン-1,3,6-三スルホン酸三ナトリウム(PTS)9分間浸漬した後, 蒸留水で洗浄し, 共焦点顕微鏡を用いて, PTSの蛍光を検出したPTSの流入は先端部に限定されていたNHEと比べ,HEでは広い領域に見られたが,ABA処理により侵入領域は狭まった.またCd 25根へのCd流入を走査型イオン選択性電極を用いてin situで測定したところ,両生態ともに, 根の先端からの距離に伴い,Cdの流入量は徐々に減少していたしかし, 根尖部の総Cd流入量はHEの方がNHEよりも多かったCdの流入量が急激に減少する点(DP)NHEでは根の先端から0.5mm, HEでは2.3mmの位置にあった対して, 生の ABA 添加は, 両生態型において, Cd の流入量をわずかに減少させ, HE ではDPは先端に0.3 mm近い位置に移動したABAとは逆に,Abamine 添加はCd流入量を増加させ,先端からDPまでの距離は対照区と比較してNHE/HE1.0/0.3 mm増加したCd 5および25の場合でICP質量分析により流入Cdを定量したところ,HEにおいてのみ,木部やシュートへのCd流入が処理濃度に依存して増加した.

 本研究では,Cdに曝露した 非高集積生態型の根では,ABA合成遺伝子発現の促進により内性ABA量が増加し,スベリン量の増加とアポプラストバリアの根端側への発達促進が観察され,木部やシュートへのCdの取り込み・蓄積は抑制され,ABAレベルの上昇が,Cdストレスに対する抵抗力を高めていた.逆に高集積生態型ではCd存在下でも内性 ABAを低く保つことでアポプラストバリア形成を最低限に留めてCdの取り込みを高めていた.

相場絢介