2020年度前期 第8回 細胞生物学セミナー

日時:630() 16:00〜   場所:zoom開催

JAZ2 controls stomata dynamics during bacterial invasion

Gimenez-Ibanez, S. , Boter, M. , Ortigosa, A. , Garcıa-Casado, G. , Chini, A. ,

Lewsey, M. G. , Ecker, J. R. , Ntoukakis, V. and Solano, R. (2017)

New Phytologist 213:1378-1392

JAZ2は細菌の侵入中に気孔動態を調節する

 

植物病原性の細菌は葉の表皮に直接侵入する手段を持たず、気孔のような天然の表面開口に依存する。感染過程において、宿主植物の細胞は膜貫通型のパターン認識受容体(PRRs)によって微生物関連分子パターン(MAMPs)を認識し、宿主植物は病原体の侵入と組織内でのコロニー形成を防ぐために急速に気孔を閉じる。通常、サリチル酸(SA)シグナリングはバイオトロフやヘミバイオトロフへの抵抗性を活性化し、ジャスモン酸(JA)/エチレン(ET)防御経路はネクロトロフへの抵抗性を活性化するが、この二つの防御機構は互いに拮抗し、一方の細菌への抵抗性を強化すると他方の細菌への感受性が高まる。Psuedomonas syringaeは広汎性のヘミバイオトロフな細菌性病原体であり、一部の株では感染するために、植物ホルモンとして生理活性を持つジャスモン酸イソロイシン(JA-Ile)のミミックであるコロナチン(COR)を生成することで、植物免疫を操作する戦略を進化させた。CORMAMP誘導性の気孔閉口後に気孔の再開口を刺激し、細菌の宿主植物への侵入を促進する。また、JA経路の活性化によりP. syringae抵抗性に必要なSA依存的な防御を阻害することでアポプラスト内の細菌増殖を促進する。CORJA-IleとしてF-boxタンパク質COI1JAZタンパク質による受容体複合体を通して感受される。COI1MYC2のような転写因子(TF)と相互作用し、JAシグナリング経路を負に制御するJAZコレセプターのターンオーバーを制御する。シロイヌナズナへの感染過程で生成されたCORは、COI1によって感受されMYC2の抑制を解除する。MYC2ANAC19, ANAC55, ANAC72の発現を活性化する。これらのANACsSA生合成を阻害することで気孔の再開口を促進し、細菌に対するSAを介した植物免疫を抑制する。しかし、COR誘導性の気孔の再開口を調節する特異的なJAZリプレッサーとそれらのターゲットである転写因子は未解明なままである。

本研究では、JAZ2が気孔孔辺細胞におけるCORの主要なJAZコレセプターであることを実証するために、シロイヌナズナの機能欠失型と獲得型の変異体を用いて実験を行った。その結果、13JAZ遺伝子のうちJAZ2が気孔孔辺細胞で機能的に発現し、細菌の感染中に気孔動態を調節することが明らかとなった。一方、孔辺細胞以外のJA応答では、JAZ2の役割は重要ではなかった。また、JAZ2のターゲットであるMYC2, MYC3, MYC4は、気孔の開口を調節するためにANAC19, ANAC55, ANAC72の発現を直接制御し、COR誘導性の気孔の再開口とアポプラストにおける防御の両方を重複して制御することが示唆された。また、JAZ2C末端にあるJasドメインを欠損した変異体jaz2Δjasでは、COR誘導性の気孔の再開口は起こらず、P. syringae感染に対する抵抗性を持つ上に、ネクロトロフへの抵抗性は変化していないことも示された。これらの結果は、細菌性CORによってハイジャックされた気孔開口の制御を担うCOI1 - MYC2, 3, 4 - ANAC19, 55, 72モジュールの存在を実証し、ネクロトロフとバイオトロフ両方に対する作物保護のための新しい戦略を提供するだろう。

興味を持たれた方はぜひご参加ください。  長橋 瑞希