2020 年度前期 第 12回 細胞生物学セミナー

日時:7 21日(火)1630〜 場所:ZOOM ミーティング

The bacterial effector HopM1 suppresses PAMP-triggered oxidative burst and stomatal immunity.

R. Lozano-Duran, G. Bourdais, SY. He and S. Robatzek(2013)

New Phytologist 10 :259-269

細菌性エフェクターHopM1PAMP誘因性の酸化バーストおよび気孔免疫を抑制する

 

植物は病原菌に対して、多面的な免疫系を進化させてきた。その第一段階がPAMP(病原体関連分子パターン)誘因性の免疫(PAMP triggered immune : PTI)であり、PTIはほとんどの病原菌への耐性としては十分である。それに対し、病原菌は植物への侵入に成功するため、植物の防御応答を妨げるエフェクターを分泌する。Pseudomonas syringaeのエフェクターであるHopM1は、シロイヌナズナにおいて、小胞輸送に関するADPリボシル化因子(ARF)グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)であるAtMIN7のプロテアソーム依存生分解を誘発することにより、後期免疫応答であるカロース沈着を引き起こすことが分かっている。しかし、HopM1の病原性促進との関連性や植物のPTI応答への影響については、未解明であった。本論文において、筆者らは、植物体でのHopM1の発現が、シロイヌナズナとタバコの両方において、PAMP誘因性の酸化バーストと気孔免疫という2つの初期のPTI応答に与える影響や、それらの免疫応答における2種類の14-3-3タンパク質であるGRF8TFT1の役割を明らかにした。

HopM1を発現させたシロイヌナズナ形質転換体において、PAMP誘因性の活性酸素産生が阻害されたことが分かった。次に、PAMPによって誘導される気孔閉鎖は減少したが、アブシシン酸やH2O2に対する気孔応答には影響を与えなかった。このことから、HopM1は活性酸素産生の抑制を通じて気孔免疫を低下させていると考えられる。また、HopM1を発現させた植物体では、プロテアソーム阻害剤MG132を投与することにより、PAMP誘因性の活性酸素産生および酸化バーストや気孔閉鎖の阻害が中程度に抑制された。このことは、HopM1によるプロテアソーム依存性分解が、PAMP誘因性の活性酸素産生の阻害に関与していることを示唆している。加えて、HopM1の標的であり、後期免疫応答に必要なAtMIN7のノックアウト変異体では、PAMP誘因性の酸化バーストおよび気孔閉鎖はいずれも抑制されないことが分かった。これらのことから、HopM1はプロテアソームに依存するが、AtMIN7に依存しない方法でPTIに作用していることが示唆された。HopM1PTIの起点となる受容体複合体FLS2-BAK1の形成に影響を与えなかったことや、HopM1がプロテアソーム分解を介して植物細胞における14-3-3タンパク質の活性を阻害していることが分かった。さらに、14-3-3タンパク質の標的タンパク質との相互作用を阻害するAICARを用いた化学的阻害法によって、PAMP誘発性の酸化バーストおよび気孔免疫は14-3-3タンパク質の機能を必要としていることを明らかにした。これらのことから、HopM1はプロテアソーム分解を介して14-3-3タンパク質の機能を化学的に阻害することにより、PAMP誘因性の酸化バーストや気孔免疫といった初期PTIを抑制していることが示唆された。

本研究で、筆者らは、HopM1は少なくとも2種類の異なる宿主植物のタンパク質GRF8/TFT1の分解を促進することで、初期免疫応答と後期免疫応答の両方を抑制する多機能なエフェクターであることを示した。

興味を持たれた方はぜひご参加ください。 西澤瑠生