2020年度前期 第3回 細胞生物学セミナー
日時:5月12日(火)10:00〜 場所:Zoom開催
Arabidopsis flowering induced by photoperiod under 3-D clinostat rotational simulated microgravity
Xie, J., Zheng, H.(2020)
Acta Astronautica.166:567-572
3次元クリノスタッットを用いた疑似的な微小重力環境下における, 光周期制御された
シロイヌナズナの開花誘導
重力は植物の成長と発達の調節に重要な役割を果たしている.宇宙の微小重力環境下では,植物の生長や開花が影響を受けることが過去の研究で報告されている.しかし,宇宙で実験する機会は非常に少なく,十分な研究がなされていないため,微小重力が植物の開花に影響を及ぼすメカニズムは解明されていない.本研究では,3次元クリノスタットを用いることで,地上で擬似的な微小重力環境を作り出し,植物の開花に重力の変化が及ぼす影響を調べた.試料には,シロイヌナズナのCol-0(野生型)と,フロリゲンをコードする遺伝子でありシロイヌナズナでは長日条件下で発現上昇するFLOWERING LOCUS T(FT)の変異体ft-10を用いた.また,Col-0背景の形質転換体pro FT:GFPと,ft-10を背景にFTのコード領域をSUC2プロモーターで篩部に発現させた形質転換体pro SUC2:FT- CDS:GFPを作成し,実験に用いた.シロイヌナズナの種子を75%エタノールで1分間,0.5% NaClOで20分間表面滅菌し,滅菌水で5回洗浄した後,MS培地,1 %スクロースおよび0.8 %寒天を含む培地上で育成した,4℃の暗室に3日間おいた後,栽培室に移し,120 μmol/m2sの光強度になるよう蛍光灯を用いて,16時間明期/8時間暗期の長日条件を整え室温(22℃)で育成した.その後,9日齢のシロイヌナズナを,6日間3次元クリノスタットで回転処理した.クリノスタット回転処理したシロイヌナズナを温室に移して2週間育成し,開花の様子を観察した.また,共焦点蛍光顕微鏡をを用いて,クリノスタット回転処理したpro FT:GFP株のGFP蛍光観察を行い,ImageJを用いて蛍光強度を測定した.加えて,qRT-PCRにより,葉におけるFTに加え,FTを制御するCONSTANS(CO)やGIGANTEA(GI)の,明周期の開始時刻(ツァイトゲーバー時刻:ZT0)からの時間経過に伴う発現量変化を調べた.さらに,葉脈からシュート頂までのFTタンパク質の移動に疑似微小重力が及ぼす影響を調べるために,pro SUC2:FT-CDS:GFP株のシュート頂でのGFP蛍光観察を行った.
実験の結果,Col-0は1 G対照区では22日齢で開花するが,クリノスタット回転処理されたCol-0は,1 G対照区よりもロゼット葉の数が有意に増加し,概ね1週間遅れて開花した.クリノスタット回転処理された15日齢のpro FT:GFP株のGFP蛍光は,1 G対照区に比べて明らかに弱く,FTやGIの発現量は,発現がピークになるツァイトゲーバー時刻において1 G対照区の半分に満たないことがわかった. 15日齢のpro SUC2:FT CDS:GFP株では,1 G対照区ではシュート頂でのGFP蛍光が容易に観察できたが,クリノスタット回転処理された個体ではシュート頂でのGFP蛍光はほとんど観察できなかった.以上のことから,疑似微小重力は,花成に重要なFTやGIなどの遺伝子の発現とシュート頂へのFTタンパク質の輸送を阻害することにより,シロイヌナズナの開花に影響を及ぼす可能性があることが示唆された.
喜納南生