2020年度前期 第3回 細胞生物学セミナー

日時:512日(火)1100〜 場所: ZOOMミーティング

A Novel Katanin-Tethering Machinery Accelerates Cytokinesis.

Sasaki, T., Tsutsumi, M., Otomo, K., Murata, T., Yagi, N.,

Nakamura, M., Nemoto, T., Hasebe, M., and Oda, Y. (2019)

Current Biology 29:4060-4070

新奇のカタニン係留機構は細胞質分裂を促進する

 

 細胞分裂は,細胞の増殖における基礎的な現象である.植物の細胞分裂は,細胞内部に細胞板が形成され,それが徐々に拡大して細胞質を仕切ることで行われるが,これはフラグモプラストの働きによって誘導される.フラグモプラストは,短い微小管が細胞板形成面に垂直に並んで形成されており,この微小管が細胞板の辺縁部に小胞輸送を行うことで細胞板の拡大が誘導される.しかし,フラグモプラストの微小管の長さの制御や,細胞板に対して垂直に並ぶ仕組みは明らかになっていない.フラグモプラストの独特な構造の形成には, 植物固有のタンパク質が関与していると考えられる.そこで,筆者らは以前発見した微小管結合活性をもつ植物固有のタンパク質CORD(CORTICAL MICROTUBULE DISORDERING)のひとつであるCORD4に注目した.

 シロイヌナズナにおいて, CORD4-GFPは分裂準備帯(PPB)やフラグモプラストに局在し,紡錘体には局在しないことが分かった.次にcord4変異体と野生型においてフラグモプラスト形成時の微小管の長さや角度分布を定量的に解析し,比較した. 野生型では長さはほぼ一定,角度もほぼ垂直に維持されるのに対し,変異体ではフラグモプラスト形成の段階によって,長さ,角度が共に変化し,全体を通して長さは野生型よりも長く,角度は傾いた状態であった.このことからCORD4がフラグモプラストの微小管の長さと角度を制御していることが示唆された.また,フラグモプラストの拡大速度を調べると,野生型よりも変異体の方が遅かったことから,CORD4がフラグモプラストの拡大を促進することが示唆された.さらに,多光子励起レーザースピニングディスク顕微鏡を用いて、シロイヌナズナやタバコ培養細胞BY-2株におけるフラグモプラストの微小管とCORD4の局在を観察した.フラグモプラストが細胞板を形成しながら拡大する間,CORD4はフラグモプラスト辺縁部の微小管のマイナス端に局在した.次に,微小管切断活性をもつタンパク質であるKTN1の局在を観察した.野生型において, EYFP-KTN1CORD4と類似した局在パターンが見られ,フラグモプラストの辺縁部においてEYFP-KTN1CORD4-ECFPは共局在していた.cord4変異体で同様の観察を行うと,EYFP-KTN1はフラグモプラストの広範囲で検出された.CORD4を欠損させるとフラグモプラスト辺縁部におけるKTN1の局在が無くなったことから,CORD4がフラグモプラスト辺縁部にKTN1を集積させていることが示唆された.また,ktn1変異体におけるフラグモプラストの幅と拡大速度を定量的に解析すると,cord4変異体と類似した結果が得られたため,KTN1CORD4によるフラグモプラスト発達の調節に関与していることが示唆された.

 本研究で,筆者らはCORD4がフラグモプラストの正常な形成と拡大や,辺縁部へのカタニンの係留に必要であることを示した.KTN1に微小管切断活性があることから,CORD4KTN1をフラグモプラストに係留し,KTN1が微小管の長さや角度を調節することで細胞板の形成効率を高め,細胞分裂を促進していると考えられる.筆者らの発見は,短い微小管の形成を時間的,空間的にカタニンが制御するメカニズムの解明に役立つだろう.

興味を持たれた方はぜひご参加ください. 山ア 優香