2020年度前期 第4回 細胞生物学セミナー
日時:5月19日(火)時刻10:00〜 場所:ZOOMミーティング
Variation in stem morphology and movement of amyloplasts in white spruce grown in the weightless environment of the International Space Station
Rioux, D., Lagacé, M., Cohen, L. Y., Beaulieu, J. (2015)
Life Sci. Space Res. 4:67-78
国際宇宙ステーションの微小重力環境下において生育したシロトウヒの幹の構造および
アミロプラストの動態の変化
重力は植物の挙動に影響を与える環境刺激の一つであり, しばしば重力屈性を誘発する. 重力屈性に関わる重力感知は, 最初に物理的な情報を介して行われるが, この点ではプラスチド, 特にアミロプラストの沈降が非常に重要であるとの仮説が最も有力である. 2009年, 国際宇宙ステーション(ISS)内での実験機会がカナダ森林局に提供され, 筆者らは,カナダ経済にとって非常に重要な種ではあるが, 無重力環境下での研究はほとんど行われていない針葉樹種に注目し, 3つの系統の1歳齢シロトウヒ(Picea glauca (Moench) Voss)を用いて, 幹とその葉(針状葉)の形態学的形質と, 主にアミロプラストの沈降に関連した特徴をISSの微小重力環境下と地球上で育った苗とで比較した.
実験に用いたシロトウヒの苗は事前に地上で休眠を解除し, 宇宙実験に必要な移植キット等と共にISSへ輸送した. 宇宙実験および地上対照実験は、CSS-Dynamac社がNASAのために開発したAdvanced Biological Research System(ABRS)を用いて実施した. ABRSは, 温度, 照度, 相対湿度(RH), CO2, エチレン, 揮発性有機化合物を独立して制御できる閉鎖型システムである. シロトウヒの苗は, 地上とISSで30日間生育させた. 温度は24℃, 80%RH, CO2濃度500 ppm, 光量は平均70-75 µmols/m2sとした.
ISSで育った苗のシュートの葉の長さは, 地上で育った苗よりも長いことが分かったが, シュート長についてはISSと地上で有意な差はなかった. また, 茎に対する葉の傾きは, 地上とISSのシュートで有意な差はなかったが, 地上の葉はISSのものよりも幹の基部方向に傾いていた. これは, 微小重力環境下では地上のように重力に強く反応する必要がないからだと筆者らは考えている. 続いて, 筆者らは光学顕微鏡を用いてアミロプラストの局在を観察した. シュートにおいて, 地上のグループでは葉跡と皮層細胞の間にあるデンプン鞘細胞でアミロプラストが沈降していたが, ISSのグループでは同様の細胞内でランダムに分布していた. また根においては, 地上の苗では根冠のコルメラ細胞内にアミロプラストが沈降しており, コルメラ細胞の外周部の細胞では沈降は見られなかった. これに対して, 微小重力環境下では, アミロプラストはコルメラ細胞およびその外周部の細胞でもランダムに分布していた. なお, 核はシュートと根の両方で, 沈降したアミロプラストのすぐ上に存在していた. また, 透過型電子顕微鏡を用いた観察により, 沈降したアミロプラストの近くで液胞を検出することも多く, 液胞内にはトルイジンブルーによる染色性からフェノール様化合物の存在が示唆された. そして, 小胞体(ER)は主にこれらのアミロプラストのすぐ下で観察された. したがって, アミロプラストが沈殿すると, ERに圧力が加わり, この圧力がERで化学的シグナルに変換され, ERの機能に影響を及ぼし, これがシロトウヒの重力屈性に関与するシグナル伝達経路で役割を果たしている可能性が示唆された.
興味を持たれた方はぜひご参加ください. 小出みなみ