2020年度前期 第5回 細胞生物学セミナー

日時:6月2日(火)10:00~ 場所:ZOOM開催

Evolving technologies for growing, imaging and analyzing 3D root system architecture of crop plants

Piñeros, A. M., Larson, G. B., Shaff, E. J., Schneider, J. D., Falcão, X. A., Yuan, L., Clark, L. T., Eric, J. C., Davis, W. T., Pradier, P., Shaw, M. N., Assaranurak, I., McCouch, R. S., Sturrock, C., Bennett, M., Kochian, V. L (2015)

J. Integr. Plant Biol 58:3

作物の三次元根系構造を成長させ,可視化および解析するための技術発展

植物の根系は植物体の支持だけでなく水分や栄養分の吸収や貯蔵に必須の役割を果たしている.そうした生理学的機能は根系の形態や空間分布に大きく影響され,特に作物では収量が多大な影響を受けることになる.根系構造の遺伝的基盤を同定する技術が近年発展しつつあり,分子育種においては根系構造を作物の生産能力を評価する際の有用な形質として利用できると考えられる.そのためには土壌内部の根系の三次元的な形態を動的に画像化し定量する技術が必須である.筆者らは先行研究において,透明なゲランガム培地で栽培したイネ(Oryza sativa L.)の根系のシルエットを撮影し,二次元画像から三次元画像を再構成するシステムを確立した(Clark et al. 2011).この方法で根系の三次元構造の分類と形質の定量化が可能となったが,培地調整や無菌状態での播種などにかかるコストが大きく,さらにゲランガムは根系構造に影響を及ぼすことが示され,一部の作物はゲランガム栽培に不適であることから,より低コストで多くの植物に適用可能な実験系への改良が必要であると考えられた.本研究では先行研究での課題を克服するため,従来のゲランガムに替わる支持体として,円盤状のABS樹脂製プラスチックメッシュをロッドで支えてタワー状に配置した支持体を設計した.根系はメッシュで支えられながら成長する.根系構造の3Dイメージングは従来通り撮影用水槽で行い,真横から3.6°ずつ角度を変えながら根系の画像を100枚取得し,各画像にフィルタリングと二値化処理を施して支持体とそれが支える根系のシルエットを計算した.根系構造の抽出で障害となる支持体はそれと同色の黒色背景を使用することで背景として処理した.しかし,メッシュによって遮られた部分は除去できず,結果として複数の水平なバンド状の障害物として残った.二次元画像をRootReader3DClark et al. 2011)で再構成して三次元化し,細線化処理と定量解析を行った.始めに,本システムを用いた水耕法によりイネ,キュウリ,ソルガム,トウモロコシ,ダイズについて根系の発達状況を調べた.Magnavaca栄養液(Magnavaca et al. 1987)入りの遮光されたガラスシリンダーに支持体を入れ,実生を支持体最上部のメッシュに配置した状態で水耕栽培した.その結果,先行研究でゲランガムが適用できなかった植物種でも支持体を用いた水耕法では根系が十分に成長することが示された.次に,土壌中での根系構造をシミュレートするため,焼成粘土Turface培地を支持体入りのシリンダーに流し込み,2品種のイネ(Azucena, IR64)の苗を植えてシリンダーを浸水させた状態で栽培した.9または13日間後,撮影用水槽に移してシリンダーを静かに取り外し,Turfaceを洗い流して支持体で支えられた根系を撮影した.支持体なしのTurfaceのみのシリンダーと土壌のみのシリンダーで10日間イネを栽培しXCTにより根系構造の三次元データを取得し,支持体ありのTurface培地で得られた結果と比較した.その結果,支持体の有無による根系形態の定量的な違いは見られず,Turface培地での根系形態は土壌での形態と近いという結果が示された.最後に,培地の違いによる影響を調べるため,支持体を用いて水耕法,ゲランガム,Turface培地で上記2品種のイネをそれぞれ9日間栽培し18項目の根系の形質を定量し比較した.培地間で根系形態を比較した結果,水耕法とゲランガムは似た構造を示し,Turface培地の根系は他の二つに比べて分岐が少なく曲がりが多い構造となった.各培地でのAzucenaIR64との根系形態のパラメータを比較した結果,ゲランガムと水耕法では共通してAzucenaの根系はIR64よりも重心と根の最大深度が有意に深く(p < 0.01),横断面でみた根の最大数が有意に小さいなどの違いが見られた.有意では無いものの根系の長さ/体積比と体積分布でもゲランガムと水耕法で共通してAzucenaIR64よりも減少傾向となった.Turfaceでは成長が比較的遅く,他の培地で見られたような品種間での根系の重心と根の最大深度の有意な差は見られなかった.そこで,栽培期間を13日間に延ばして比較するとAzucenaの根系の最大深度がIR64と比較して有意に深くなり,他の培地での結果と合致する有意な差が現れた.以上の結果から,本研究のシステムではプラスチック製メッシュの支持体を導入することで,水耕栽培によって多種類の作物の根系を成長させられることが示され,ゲランガムで得られる結果に近い情報を抽出できることが示された.さらに,Turfaceを併用することで土壌に近い環境で成長した根系の構造を効率的に定量解析し有意な差を検出できることが示された.メッシュによる障害物などの課題は残るものの,本研究の低コストで柔軟な根系解析システムは様々な植物種や任意の環境で根系構造を解析する上で有効な手段となることが期待される.

山浦遼平