2020年度前期 第6回 細胞生物学セミナー

日時:69日(火)1630〜 場所: ZOOMミーティング

Cytoplasmic MTOCs control spindle orientation for asymmetric cell division in plants.

Kosetsu, K., Murata, T., Yamada, M., Nishina, M., Boruc, J.,

Hasebe, M., Damme, D., Goshima, G. (2017)

PNAS 114E8847-E8854

植物の非対称細胞分裂において,細胞質の微小管形成中心は微小管の配向を制御する.

 

 細胞分裂軸の配向の正確さは,支持細胞の分化のための非対称細胞分裂に重要である.動物では,中心体が主要な微小管形成中心(microtubule organizing center; MTOC)であり,中期紡錘体の配向軸決定に働く.中心体を持たない陸上植物では,分裂準備帯(PPB)が紡錘体の空間的位置やフラグモプラストによる細胞分裂面の決定に関与することが知られている.また,前中期にはプロスピンドルと呼ばれる微小管構造体が,PPBと垂直になるように核の周りに形成され,紡錘体に微小管を供給する.しかし,PPBを形成できないシロイヌナズナの系統ではプロスピンドルを形成することができず,PPBが紡錘体の配向を決定する機能をもつことが示唆されている.一方で,配偶子や内胚乳などのPPBが形成されない細胞でも正常な分裂は行われるため,植物はPPBに依存しない分裂面決定機構も発達させているはずである.このように,植物の細胞分裂軸の決定機構は未解明な部分が多い.

 本研究では植物の分裂面決定の基本メカニズムを明らかにすることを目的に,ヒメツリガネゴケの茎葉体をモデル組織として用いた.初期の茎葉体のライブイメージングの結果,茎葉体ではPPBは形成されないが,分裂期直前で頂部細胞質中に微小管群が現れ,核膜崩壊後は紡錘体微小管と融合することを確認した.筆者らは,一時的に現れたこの微小管群を「gametosome」と名付けた.茎葉体において微小管重合阻害剤オリザリンで処理すると微小管は消失したが,核膜崩壊後に試薬を洗浄すると微小管が再出現して双極紡錘体が形成され,gametosomeが出現することはなかった.また、茎葉体の生長軸に対する紡錘体の角度はコントロールではほぼ一定であったが,オリザリン処理をしたものはばらつきが見られた.また,紡錘体の傾きが大きいほど分裂面の傾きも大きくなった.これらのことから,gametosomeは紡錘体形成には必須ではないが正常な配向には必要であり,細胞板の位置や向きにも影響を与えることが示唆された.次に,gametosome形成因子を同定するために,微小管生成に関わるタンパク質であるγチューブリン,γチューブリンを活性化させるために必要なオーグミン, TONNEAU1TON1)の3つを候補としてRNAi実験を行うと,gametosome形成能を失ったのはγチューブリン RNAi個体のみであった.これにより,gametosome形成にはγチューブリンが必要である一方,オーグミンは必要でないことが示された.今回発見したgametosomeは,分裂期直前に現れて紡錘体に微小管を供給するという点が高等植物で見られるプロスピンドルとよく似ていた.そこでタバコ培養細胞BY-2株において微小管重合阻害剤プロピザミドを用いてプロスピンドル形成を阻害すると,コントロールでは紡錘体やフラグモプラストはPPBと垂直になるように形成されたが,プロピザミド処理細胞では双極紡錘体が形成されたものの配向が斜めになったため,プロスピンドルはgametosome同様,紡錘体の正常な配向に必要であることが示された.その後形成されたフラグモプラストは回転してPPBと同じ角度まで戻ろうとしたが,復帰できなかった細胞は異常な配向のまま細胞分裂が行われた.本研究で,進化の過程で植物は中心体を失ったが,紡錘体や細胞板の配向を正常なものにするために非中心体性のMTOCを発達させ,それは陸上植物で広く保存されていることが示唆された.

興味を持たれた方はぜひご参加ください. 山ア 優香