2020年度前期 第10回 細胞生物学セミナー

日時:721日(火)  1800〜  場所:クリエイションルーム

Preprophase-band positioning in isolated tobacco BY-2 cells:

evidence for a principal role of nucleus-cell cortex interaction in default division-plane selection

Tetsuhiro Asada (2018)

Protoplasma (2019) 256:721–729

分離されたタバコBY-2細胞におけるPPBの位置:

初期分裂面選択における, 細胞表層相互作用の主な役割の証明

 

 ほとんどの陸上植物の細胞型では, 微小管からなる分裂準備帯(PPB)が一時的に表層分裂の位置を示し, その位置で新しく形成される細胞壁が細胞質分裂の終わりに親細胞の細胞壁と交わる. この新たに形成される細胞壁は母細胞を均一に分割する傾向があり, その細胞壁の表面積は最小になり(Errera’s rule)母細胞の細胞壁に直角に交わる(Sachs’ rule)傾向がある. この傾向があるモデル(以下, リーチモデルと呼ぶ)の分裂面選択は, 母細胞自体の形状から予測でき, 未変化組織の典型的な初期選択として扱われてきた. この初期分裂面選択において使用される基準は明らかになっていない. これまでのところ, 相互接続された組織の細胞と空間的な手がかりを備えて分離した細胞を使用して, この基準が特徴付けられてきたが, 有意な空間的手がかりのない分離された細胞における分裂面選択のデータが少ない為, 植物細胞における真の初期分裂面選択を特徴づける機能について明らかになっていない. 筆者は, チューブリンにタグ付けされた蛍光タンパク質を発現するタバコBY-2細胞のプロトプラスト由来の分離した細長い細胞を用い, それらの細胞で分裂の方向と視覚化されたPPBの位置を定量化した.

 母細胞の形状を定量化するために, それぞれ2つの末端間のサイズの違いからSAI(形状非対称指数)を導入した. SAI値が2.0より低い細胞サンプル(SAI細胞)は回転楕円体に類似した対称のサンプルとし, SAI値が3.0より高い細胞サンプル(SAI細胞)は非対称のサンプルとして扱われた. その結果, 分離した低SAI細胞からのデータは, 予測されたPPBと実際の分裂線の両方が横方向(短軸)に向く傾向があり, 縦方向(長軸)には向かないことが明らかになった. また, 原形質分離した細胞由来の細胞では, 分裂方向に傾向がなく頻繁に縦方向に分裂するが, その細胞とSAI細胞間の細長比に有意差はない. このことから, 分裂面選択は母細胞の形状が決定的な要因ではないと示唆された. リーチモデルはSAI細胞が核の中心と狭い細胞端の間にPPBがマークすることを予測し, 分裂線は核中心と狭い細胞端との間に頻繁に位置することが明らかになった. 核中心と狭い細胞端との間に位置する分裂線は, 核中心と広い細胞端の間にある分裂線よりも核中心から遠くなる傾向があった. したがって, 分離したタバコBY-2細胞におけるPPBの位置は, リーチモデルに基づいて予測されたものと似ている傾向があると示唆された. 次に2つの分裂産物間の面積差の割合(分裂不平等性)について観察すると, SAI細胞母細胞から得られた分裂不平等性の値が低SAI母細胞よりも大幅に大きいことが明らかになった. また, PPBで予測された分裂不平等性の値が10%より高いSAI細胞サンプルのほとんどが, 狭い細胞端と小さい分裂産物が同じ側にあった. したがって高SAI細胞におけるPPBの位置は, 通常, 狭い細胞端を含む母細胞の部位から小さな娘細胞を生成する体積的に非対称な横方向の分裂を予測すると示唆された.

 SAI細胞におけるPPBの位置は, リーチモデルの予測と少なくともほぼ一致し, 初期分裂面選択はリーチモデルの基準を使用した選択に同じになる傾向があるという証明を提供する. さらに, リーチモデルに基づいて予想されるように, 高SAI細胞におけるPPBで予測された分裂不平等性は低SAI細胞よりも顕著に高かった. 以上のことから, 初期分裂面選択で分裂平等性を高く保つための平等性や垂直性の基準を使用しないことが示唆された. 筆者は以前, 初期分裂面選択はリーチモデルの基準と密接に関連しているErerraの最小面積の基準だけでなく, 頻繁な縦分裂の検出に基づき, 細胞壁による細胞内の応力方向に対し平行に向けられた平面を支持して作用する基準も使用する仮説を立てた. 本研究で得られた分裂角度データはこの仮説をテストする価値を高ているが, 細胞壁による細胞内の応力が分離した細胞において分裂面選択に影響するかどうか調べるためには, まだ不十分である. 分離した細胞の様々な形状からデータを得て, 異なる基準で支持しされている候補面を注意深く比較することが必要である.

 

興味を持たれた方はぜひご参加ください. 飯塚駿作