2020年度前期 第8回 細胞生物学セミナー

日時:630日(火)1600〜 場所:ZOOMミーティング

Early Effects of Altered Gravity Environments on Plant Cell Growth and Cell Proliferation

: Characterization of Morphofunctional Nucleolar Types in an Arabidopsis Cell Culture System

Manzano, AI., Herranz, R., Manzano, A., van Loon, JJWA. and Medina, FJ. (2016)

Space Sci. 3:2

植物細胞の成長と細胞増殖に対する重力変化環境の初期影響

:シロイヌナズナ細胞培養システムにおける形態機能的な核小体タイプの特徴

 

重力は植物の生育に影響を与える不変なパラメーターであり、重力変化は細胞増殖や細胞成長などの植物発生の基礎を構成する細胞プロセスに影響を及ぼす。分裂組織における細胞の成長は、リボソーム生合成とタンパク質合成の活性によって主に決定される。リボソームは核小体で生合成され、その構造的特徴はリボソーム生産速度を反映する信頼できるマーカーである。また、核小体の構造は、細胞の生理学的変化に高い感受性があり、核小体の構造変化は、光学顕微鏡と電子顕微鏡の両方で検出できる。これらの核小体の特徴を利用して、植物の増殖細胞における初期の機能変化を検出するための分析方法を確立し、細胞の成長と増殖に対する重力変化の影響を評価した。

微小重力環境をシミュレートするRPM (Random Positioning Machine)2 g 環境を生成するLDC (Large Diameter Centrifuge)の異なる重力条件下でシロイヌナズナの培養細胞は半流動性細胞培養システム内で200分間培養された。最初のアプローチとして透過型電子顕微鏡での観察により、「vacuolated」、compact」、「fibrillar」の3つの核小体タイプが定義された。VacuolatedG2細胞周期に見られ、リボソーム産生に最も活発である。CompactG1S期に見られ、リボソーム産生の様々な活性をもつ増殖中の細胞に現れる。Fibrillarは休止期に見られる。擬似微小重力下では、核小体サイズが小さく、compactが減少し、fibrillarは増加したがコントロール(1 g)と比較してvacuolatedの割合に変化はなかった。これは、RPMにおける成長の初期段階で構造的に検出された重力ストレスによる核小体活性の減少として解釈できた。対照的に過重力条件では、核小体サイズが増加した。一方で、核小体の形態変化については、コントロールと比較して、fibrillarは少なく、vacuolatedcompactは多くなることを示したが、その差は統計的に有意ではなかった。様々な重力環境で培養されたカルスの状態は、DAPI染色されたDNAをフローサイトメトリーによって定量化することによって決定された。擬似微小重力下では、S期の細胞の割合の増加及びG1期の細胞群の大幅な減少によるG2/M期の細胞群の増加が観察された。一方、過重力処理では細胞周期の相分布に有意な変化は見られなかった。また、変化した重力下でのサイクリンB1遺伝子を含む細胞増殖に関する遺伝子マーカーの発現についてqPCRにより調べた結果、コントロールと比較して、擬似微小重力下での発現レベルが有意に低下し、過重力下では有意に増加した。過重力下でのリボソーム生合成/細胞成長の調節に関与する遺伝子マーカーの発現は増加した。2Dウエスタンブロッティングの実験では、核小体タンパク質ヌクレオリンL1のアイソフォームは、コントロールと比較して、擬似微小重力下で減少し、過重力下で増加した。

 本研究で、擬似微小重力と過重力下におけるシロイヌナズナカルスの短期間の培養により、細胞成長/細胞増殖状態と相関している核小体の形態の機能的タイプの識別が可能になった。これらの核小体タイプは、環境ストレスセンサーまたは病理学的マーカーとしての潜在的な適用性がある。加えて、重力変化が細胞周期の進行と調節の初期変化、ならびに核小体タンパク質ヌクレオリンの翻訳後修飾に関連するリボソーム生合成の速度変化を引き起こすことを発見した。

 

興味を持たれた方はぜひご参加ください。 田口 直哉