2020年度前期　第9回　細胞生物学セミナー

日時：7月7日（火）16:30～　場所：ZOOM開催

Polar auxin transport is essential to maintain growth and development of etiolated pea and maize seedlings grown under 1 g conditions: Relevance to the international space station experiment

Miyamoto, K., Inui, A., Uheda, E., Oka, M., Kamada, M., Yamazaki, C., Shimazu, T., Kasahara, H., Sano, H., Suzuki, T., Higashibata, A., Ueda, J.

Life Sci. Space Res. 20:1-11

オーキシン極性輸送は1 g条件下で栽培されたエンドウとトウモロコシの苗の成長や発達を維持するために

不可欠である：国際宇宙ステーション実験に関連して

陸生植物の成長・発達は, 光, 重力, 温度などの周囲の環境刺激の影響を受ける. 固着性の植物のライフサイクルにおける生理学的プロセスは, 運動性の動物とは異なり, 重力刺激の影響を大きく受けると考えられている. 植物は地球上で重力刺激に適応するための様々なメカニズムを獲得してきた. 重力刺激が植物の成長や発達にどのような影響を与えるのかを明らかにするためには, 宇宙空間での微小重力環境などの重力刺激のない条件が最も重要で有用なツールとなっている. 刺激のない環境下では, 植物は自発的形態形成（automorphogenesis または automorphosis）と呼ばれる自発的な成長を示す. 植物の成長と発達は, 植物ホルモンやその他の植物成長物質によって動的に制御されている. 植物ホルモンオーキシン類であるインドール-3-酢酸（IAA）は屈性運動, 細胞伸長, 維管束のパターン形成, 頂芽優勢, 根の形成などの複数の生理的プロセスを制御する上で重要な役割を果たしている. 自発的形態形成には, オーキシンの頂端側から基部側方向への極性輸送が関わることが地上での実験で示されている. また, これまで, 極性輸送には重力は関わらない可能性が考えられたこともあったが, 重力が関わることが以前の宇宙実験により示されている.

重力が極性オーキシン輸送を制御するメカニズムを分子レベルで解明するために, 真正双子葉植物のエンドウ（Pisum sativum L.‘Alaska’）と単子葉植物のトウモロコシ（Zea mays L.‘Golden Cross Bantam’）の苗を用いて, 微小重力での自発的形態形成におけるオーキシンダイナミクスに着目した “Auxin Transport” と呼ばれる実験が実施された. “Auxin Transport” は4つのRunで構成されており, Run2と3は2016年5～6月に, Run1と4は2017年3月に国際宇宙ステーション（International Space Station : ISS）で実施された. ISSで3～4日間生育されたエンドウやトウモロコシの苗は, 微小重力条件下または人工1 g条件下での成長方向や発達の影響, 極性輸送阻害剤TIBAの作用などを調査するために写真撮影された. また, 極性オーキシン輸送を測定するため, ３日齢のエンドウと4日齢のトウモロコシの苗からJAXAステムカッターを用いて長さ20mmの切片を切り分け, その切片を¹⁴C-IAAを含むラノリンが入った1.5 mLのエッペンチューブ内に挿入して¹⁴C-IAAを切片の先端側に取り込ませた. 地球に帰還後, IAA輸送量を測定するために, シンチレーションカウンター（2200CA、Packard Instrument, CT, USA）を用いて放射能を測定した. IAAの輸送量には, 切片の基部側と反対側の放射能を調べた.

実験の結果, 人工1 g条件下で生育させたエンドウの苗では, 上胚軸では負の重力応答が, 根では正の重力応答がそれぞれ見られた. 一方, 微小重力条件下で生育されたエンドウの苗では自発的形態形成が確認され, 上胚軸は子葉から離れる方向に約45°, 根は容器内の気中に約20°曲がっていた. 地上1 g条件下で生育されたトウモロコシの苗の幼葉鞘と中胚軸は, ほぼ直線状に成長し, 重力に逆らって上向きに成長したのに対し, 微小重力条件下では, 4 日齢の苗の幼葉鞘はほぼ直線的に成長したが, 中胚軸は湾曲して不規則な方向に成長した. また, 微小重力条件下でのオーキシン極性輸送活性は, 人工1 g条件下や地上1 g 条件下と比較して, エンドウの上胚軸では有意に抑制され, トウモロコシのシュートでは有意に促進されていた. TIBAは, 宇宙空間における人工1 g条件下と微小重力条件下においてエンドウの苗の成長方向と極性オーキシン輸送活性に大きな影響を与え, 両者にTIBAと微小重力は相乗効果を示した. これらの結果により, 植物の重力応答には十分な極性オーキシン輸送が不可欠であることが強く示唆された. また, 微小重力条件下で生育されたトウモロコシの苗における極性オーキシン輸送を促進するメカニズムも提案された. 千龍　海夕