2020 年度後期 第1回 細胞生物学セミナー

日時 :11 月17 日(火)16:00〜 場所:総研棟 6 クリエーションルーム

SUBERMAN regulates developmental suberization of the Arabidopsis root endodermis

Cohen,  H. ,  Fedyuk,  V. ,   Wang,  C. ,   Wu,  S. ,   Aharoni,  A  (2020)

Plant J.  102: 431-447

転写因子 SUBERMAN はシロイヌナズナの根内皮のスベリン化を制御している.

 

 根の内皮は, 根の維管束を取り囲む皮層の最内層であり,  土壌から取り込まれた水, 溶質に対する最も重要なバリアとしての役割を果たしている. 内皮のバリア機能は, リグニン化したカスパリー線とスベリンラメラの疎水性コーティングによって達成されるが, 内皮のスベリン化を制御するメカニズムはまだ解明されていない.  筆者らは,スベリン生合成における MYB 転写因子の役割を明らかにしてきた. 本研究ではシロイヌナズナの SUBERMAN(SUB)と名付けた MYB39 がスベリン生合成を制御することを見出したので報告する.

 

シロイヌナズナArabidopsis thaliana (L. ) Heynh. Columbia-0 Nicotiana benthamianaの種子を4℃2-3日間催芽処理した後, 栄養価の高い土壌培地で8 x 8 x 6 cm0. 4 L)のポットに播種した.  苗は, 22℃, 湿度70, 18時間/6時間の明暗サイクルで育てた.  SUB-OXを作製するために, 'Phusion' DNAポリメラーゼ(Finnzyme)キットを用いて全長ゲノムSUBAt4G17785)配列を増幅し, ユニバーサルプラスミド(pUPD)にクローニングし, これをトマトUBIQUITIN10pSlUBQ1)構成プロモーターを含むpUPDにライゲーションした. 

 SUB がラメラ沈着を誘導するかどうかを評価するために, SUB のコード領域を過剰発現させるベクター( SUB-OX)を用いて Nicotiana benthamiana の葉で一過性発現させ葉の表皮および葉肉細胞において透過型電子顕微鏡で細胞壁の構造を調べた結果, 細胞膜と細胞膜の間に沈着した特異的なスベリン様ラメラが存在することが明らかになった.

 次に SUB 発現の変化が根の内皮のスベリン化に及ぼす影響を調べるために, 根の SUB発現が 87%減少した SUB 変異体を特徴付け, 根の SUB 発現が 37 倍に増加したシロイヌナズナの株SUB-OX)を作出した. ラメラ性スベリンを染色できるが, 拡散した非ラメラ性スベリンを染色できない蛍光色素であるフルオロールイエローで染色し, 5日齢の根におけるスベリンの染色パターンを観察した.  予想されたように, 野生型(WT)根は, 連続的なスベリン化帯では強い染色を示したが, SUB-OX の根は, パッチ状のスベリン化領域と連続的なスベリン化領域の両方で弱い染色パターンを示した. SUB-OX の根は, 内皮細胞, 層細胞, 表皮細胞で顕著な異所性の スベリン染色を示し, 表皮での染色パターンは内皮や皮層で観察された染色パターンよりも 強度が低かった. 異所性のスベリン化は, パッチ状のスベリン領域と連続的なスベリン領域の両方で観察され, 自然にはスベリン化を受けない根の下部領域に位置する内皮細胞でもスベリンの染色が検出された. 以前に, 異所性のスベリン化は, カスパリー線に欠陥のある変異株の根において, 補償的な応答として発生することが報告された. しかし, カスパリー線の自己蛍光の共焦点観察では, WT, sub, および SUB-OX の根の非スベリン化領域, パッチ状, または連続的なスベリン化領域において変化は見られなかった. これらの観察結果は, 根における SUB の活性はスベリンラメラの確立に限定されており, カスパリー線形成には影響しないことを示唆している.

 また, SUB はスベリン生合成, 輸送, 制御遺伝子のプロモーター領域を制御し, スベリンラメラの沈着を開始させる. SUB が存在しない場合, スベリンラメラのバリア機能が阻害され, 内皮のスベリン含有量は減少し, トランスクリプトーム解析により, スベリン, フェニルプロパノイド, リグニン, クチクラ脂質の生合成に関連する転写ネットワーク, 根の輸送, ホルモンシグナル, 細胞壁修飾に関わる遺伝子の転写産物の減少を引き起こすことがわかった. さらに, 根の溶質取り込み能力に影響したが大きなものではなかった.  SUB が過剰発現した場合, すべての根の細胞層で異所性のスベリンラメラの沈着が様々な程度で発生し, 微量なイオンが細胞を越えて内皮や木部に取り込まれるのを阻害している可能性があることがわかった.  これらの知見は, 内皮バリアの性能に関与する分子機構の解明に向けた重要な里程標となるものであった.

 

興味を持たれた方は是非ご参加ください.     相場絢介