2020年度後期 第2回 細胞生物学セミナー

日時:1117()  16:00~  場所:総合研究棟6階クリエイションルーム

The preprophase band of microtubules controls the robustness of division orientation in plants.

 Schaefer, E. , Belcram, K. , Uyttewaal, M . , Duroc, Y. , Goussot, M. , Legland, D. , Laruelle, E. , Tauzia-Moreau, M. , Pastuglia, M. , Bouchez, D. (2017)

Science: Vol. 356, Issue 6334, pp. 186-189

 

微小管から成る分裂準備帯は植物の分裂方向の堅牢性を制御する

 

 細胞分裂面の方向の制御は, 多細胞生物における形態形成に必須である. 植物細胞は細胞壁が存在する ため移動できず, 植物の3次元の組織は基本的には有糸分裂の方向とタイミングによって確立される. よって, 細胞分裂の正確なコントロールは正常な発生過程の信頼性を確保するために必要である. 植物細 胞の細胞質分裂は, 終期で開始され, 表層に向かって伸長する細胞板の新規の合成によって達成される. 表 層分裂面挿入予定領域(CDZ), 有糸分裂に入る前に, 核を取り囲むように細胞表層部分に微小管がリン グ状に密に配向する分裂準備帯(PPB)によってマークされる. この微小管配列は, 後に伸長する細胞板が認識する表層修飾を誘導することにより, CDZの決定の役割を果たすと提唱されている. しかし, この説は ton1fassの変異体のように, 他の微小管配列は阻害せず, PPBの機能のみを阻害することが困難であったことから裏付けることが難しかった. PPBを含む表層微小管の空間的な組織化にはTTP(TON1-TRM- PP2A)複合体のタンパク質ネットワークが関与する. 筆者らは, TTP複合体の形成と細胞骨格へのターゲティングの役割を果たすシロイヌナズナのTON1 Recruiting Motif(TRM)タンパク質に着目し た. 本研究で, PPB形成を損なうが間期の微小管には影響を与えないtrm変異体を作成し, この説の裏付けを試みた.

 まず, 細胞分裂におけるtrm6-8 の機能を特徴づけるために各遺伝子の変異において, チューブリン免疫 局在化法を用いて微小管配列形成を評価した. 根端分裂組織では, trm7 の破壊はPPBの形成を部分的に抑 制し半数の細胞のみがPPBを形成していた. trm6 trm8 の変異と組み合わせると, これらの欠陥が増強さ れ, trm678 三重変異体では正常なPPBが形成されなかった. また, 変異体では間期の微小管と分裂期のPPB 以外の紡錘体などの微小管構造は正常であった. 次に, trm6-8の変異が新規の細胞壁と細胞の軸との角度, 体積比, 紡錘体の配向に及ぼす影響を調べた. いずれも変異体と野生型の平均配向は類似しているが, 変異 体では分散が増加した. このことから, PPBが細胞分裂面決定の決定因子としてではなく, 安定化因子として働き, 紡錘体の位置に影響を与えていることが示された.

 PPBの位置と分裂部位から, PPBは有糸分裂中に将来の分裂部位の位置情報を保持する分子を標的にしてCDZを定義していると推測される. しかし, trm678 変異体ではCDZ因子を破壊した場合に観察されるような高度に乱れた細胞形態の変化は見られなかった. そこで, trm678変異体の根の分裂細胞においてCDZ 因子であるPOK1局在の動態を解析することで, trm678 の細胞におけるCDZの確立を評価した. 野生型に おいて, POK1 の局在はPPB 期では細胞質に分布し, フラグモプラスト期には細胞表層におけるリング状 の分布へと変化するが, trm678 変異体の細胞ではPOK1 の表層へのターゲティングが遅れていた. PPBが 存在しない場合, 細胞質から表層へのPOK1のターゲティングのタイミングと効率が変化しているように 見えたが, POK1は表層への移動能力を維持し, おそらくCDZに相当する表層リングを形成していた本研究の結果から, PPBは細胞分裂面の決定要因というよりも, 予め定義された空間的な合図に配列するノイズ軽減モジュールで, 紡錘体の配向と双極性のための頑丈な赤道基準を提供すると考えられる.

 

興味を持たれた方はぜひご参加ください. 飯塚駿作