2020年度後期 第4回 細胞生物学セミナー
日時:12月8日(火)17:00〜 場所:オンラインZOOM開催
Modulation of root‐skewing responses by KNAT1 in Arabidopsis thaliana
Qi,B.,Zheng,H.(2013)
Plant J,76:380-392
KNAT1によるシロイヌナズナの根曲がり応答の制御
高等植物は、様々な環境刺激に対して根の生育方向を変化させる.硬い寒天培地,特に傾いた培地で栽培された場合,植物の根はまっすぐに成長するのではなく,「波打つ」もしくは「湾曲する」成長パターンを示す.本研究では,根の湾曲を制御するKNAT1遺伝子の機能を解析した.KNAT1はBREVIPEDICELLUS(BP)とも呼ばれ,茎頂分裂組織の維持など,緑色植物系統において発生の様々な面を制御しているが,根の発生におけるKNAT1遺伝子の機能は未だ明らかになっていない.実験には,シロイヌナズナ野生型であるColumbia(Col),Labdsberg erecta(Ler)及びLandsberg ERECTA(Lan),BP変異体であるbp-1(Ler背景)とbp-5(Col背景)を用いた.垂直または60度傾斜した寒天培地で栽培すると,野生型Lerの根がわずかに右に湾曲したのに対し,bp-1変異体の根は大きく右に湾曲した.この結果は,根の湾曲がKNAT1によって制御されていることを示している.これまでの研究で,根の右曲がりの成長は根の表皮細胞列配向の回転(Cell File Rotation:CFR),および表層微小管の動態特性が関わることが示されている.そこで,bp-1およびbp-5変異における微小管の阻害が,CFRによる表皮細胞列のねじれに及ぼす影響を観察するために,微小管重合阻害剤であるプロピザミドを含む寒天培地で栽培し,根の湾曲および表皮細胞列ねじれの角度を定量化した.その結果,プロピザミド非存在下では,変異体bp-1およびbp-5の根は,それぞれの野生型よりも過度に右に湾曲し,左巻きのCFRを示した.プロピザミドの存在下では,変異体bp-1, bp-5およびそれらの野生型Ler とColの湾曲の角度は,左巻きCFRを伴って著しく増加した.しかし,プロピザミドの有無による根の湾曲とねじれ角の変化の度合いは必ずしも同調していなかった.このことから,KNAT1による根の湾曲の制御と,表層微小管の配列が直接関係しているとは結論づけられなかった.次に,重力が根の湾曲に与える影響を調べた.3Dクリノスタットで栽培されたbp-1とLerの両方の根は,ランダムな成長パターンを示し,右に湾曲しなかった.この結果は,bp変異体の根の右曲がり成長には重力刺激が必要であることを示唆している.明瞭な右曲がりを示すbp-1とLerを選択し,根の先端が重力方向に向くように回転させ,それを繰り返した.その結果,いずれの根も引き続き右への湾曲を繰り返したが,bp-1は湾曲の度合いが大きかった.このことから,bp-1では重力屈性による方向補正能が低下している可能性があると結論づけられた.これまでの研究から,オーキシン(IAA)輸送が重力屈性による方向補正に関与している可能性が示唆されている.そこでIAA輸送阻害剤であるトリヨード安息香酸(TIBA)の効果を調べたところ,bp-1の根の湾曲を阻害した.このことから,bp変異体の根の湾曲が正常なオーキシン輸送を必要としている可能性が示唆された.bp変異体では,TIBAによってIAAの求頂的輸送を阻害しても根の湾曲は阻害されず,求基的輸送を阻害した場合のみに湾曲が阻害された.求基的IAA輸送に関わるPIN2タンパク質の役割を調べるため,bp-5/pin2二重変異体を作製た.その結果,bp-5/pin2の根は,bp-5に比べて,寒天培地を水平にした場合の根の巻き具合が有意に減少した.これらの結果は,bp変異体の根の湾曲にはPIN2を介した求基的オーキシン輸送が関わる可能性を示唆している.PIN2-GFPレポーター観察とウエスタンブロット解析の結果,bp変異体の根においてはPIN2タンパク質が野生型と比較して低下していた.しかし,qPCR解析により,bp-1,bp-5の根におけるPIN2遺伝子の発現は,野生型と比較して有意差がないことが示された.これまでの研究で,PIN2のレベルは,分解液胞によるタンパク質分解などの翻訳後制御に大きく依存していることが示唆されている.そこで,液胞内のタンパク質分解を阻害するコンカナマイシンAで処理したbp変異体のPIN2-GFPの液胞内分布を評価した.その結果,bp変異体においては分解液胞へのPIN2の蓄積が野生型に比べて増加した.このことから,bp変異体におけるPIN2レベルの低下は,PIN2の分解液胞への蓄積が増加した結果であることが示唆された.pBP::GUSレポーター遺伝子の発現は,主に根の伸長領域および分裂領域の内鞘および内皮で観察されたが,オーキシンが蓄積されている末端伸長領域および根端ではあまり見られなかった.このことから,BPの作用部位と発現部位が異なるという問題が生じるため,現在のところ,根端におけるオーキシンの蓄積とKNAT1変異との関係については結論が出ていない.KNAT1とオーキシン輸送の関係を理解するには,KNAT1タンパク質と,内鞘および内皮におけるオーキシン輸送との相互作用の解析が重要であると考えられる.
喜納南生