2020年度後期 5 細胞生物学セミナー

日時:1215() 1600〜 場所:総合研究棟6

Both gravistimulation onset and removal trigger an increase of cytoplasmic free calcium

in statocysts of roots grown in microgravity

François Bizet, Veronica Pereda-Loth, Hugo Chauvet,1 Joëlle Gérard, Brigitte Eche, Christine Girousse, Monique Courtade, Gérald Perbal, and Valérie Legué (2018)

Sci Rep. 8:11442

重力刺激の開始と除去の両方が, 微小重力下で生育した根の平衡細胞における

細胞質遊離型カルシウムの増加を誘発する.

 

 重力は, 植物の成長と発達を導く不変の環境信号である. 植物における重力感知は平衡細胞と呼ばれる特殊化した細胞で起こり, この細胞はシュートの内皮や根冠の中央に位置している. 平衡細胞は平衡石と呼ばれるデンプンが充填されたプラスチドを含んでおり, 平衡石の密度が細胞質の密度より高くなると, 平衡石の位置は重力方向に変位する. したがって, デンプン-平衡石仮説では, 平衡細胞が植物の重力感知センサーの一つを構成していると仮定している. また, カルシウムのようないくつかのアクターが重力感知に関与していることは知られているが, カルシウムの変化に対する平衡石の変位の効果は明らかになっていない. 本研究ではこれを明らかにするために, セイヨウアブラナ(Brassica napus L.)の根を, 国際宇宙ステーション内で微小重力下または地上の重力を模した模擬重力下で生育させ, 透過型電子顕微鏡による平衡石変位の観察およびピロアンチモン酸(PA)沈殿法による細胞内遊離型カルシウムイオンの評価を行った.

微小重力環境下において, 短時間の模擬重力の発生あるいは除去が平衡石の位置に与える影響を調べるために生育条件は4つ設け, (i)模擬重力下で40時間(1 gs), (ii)模擬重力下で39時間50分後に微小重力下で10分間(1 gs+μg, (iii)微小重力下で40時間(μg), (iv)微小重力下で39時間50分後に微小重力下で10分間(μg1 gs)とした.

40時間生育させた後のB. napusの根において,  PA沈殿物は主に細胞質で観察され, 液胞と核の内部の平衡石付近でも検出されたが, 細胞壁には見られなかった. この細胞内分布は、全ての条件で観察された。また, μgおよび1gs下で40時間生育した根の平衡細胞において, PA沈殿物の密度は類似していた. 一方, 10分間の模擬重力条件(μg1gs)では, μg条件と比較して4倍の有意な増加が観察された. また, 10分間の微小重力条件(1gs+μg)では, 1gs条件と比較して有意な2倍の増加が観察された. これらの増加は, 重力刺激の開始と除去の両方がPA沈殿物の数の増加を誘発したことを明らかに示しており, 根の平衡細胞における遊離細胞質カルシウムの増加を示唆している.また, 模擬重力の発生および除去(1gs+μg, μg1gs)10分間受けた根における平衡石の位置を, それぞれの初期状態(μg, 1gs)と比較したところ, それぞれ対照と比較して平衡石の平均位置に統計的な違いは見られなかった. また, 根の長軸方向に沿った平衡石の配置は, μg1gsの間で統計的に異なっていた.

結論として, 本研究では, 非常に低い振幅の平衡石変位が, 模擬重力発生後の細胞内遊離カルシウムの放出を誘発するのに十分であったことを示唆しており, この細胞内遊離カルシウムの放出が重力伝達経路の引き金となると考えられている. 興味深いことに, この結果は模擬重力除去後にも観察され, 平衡石の重量が重力感知に必須ではない可能性が示唆された. ここから立てられる仮説は2つあり, 第一の仮説は, 別の細胞構成要素との接触確立または除去を介した平衡石の再配置の感知によるものである. 第二の仮説は, アクチン細胞骨格のような細胞内ネットワークを利用した平衡石運動の感知によるものである. これらの仮説を検証するために, カルシウムやpHモニタリングのような重力伝達経路の指標と平衡石のトラッキングを結合させたin vivo実験が有用となるだろう. また, 重力信号伝達に動員される細胞内カルシウムの貯蔵場所を特定することも, 今後の研究の主要な目的である.

 

興味を持たれた方は是非ご参加ください。 小出みなみ