2020年度後期 第5回 細胞生物学セミナー

日時:128 () 1600〜 場所:総合研究棟6階クリエイションルーム

Simulated microgravity, Mars gravity, and 2g hypergravity affect cell cycle regulation, ribosome biogenesis, and epigenetics in Arabidopsis cell cultures

Khaled Y. Kamal., Raúl Herranz., Jack J. W. A. van Loon & F. Javier Medina

SCIENTIFIC REPORTS (2018) 8:6424

擬似微小重力,火星重力と2 Gの過重力はシロイヌナズナ細胞培養における

細胞周期制御,リボソーム生合成,エピジェネティクスに影響を及ぼす

 

 重力は,生物進化の過程を通じて一定の状態を保った地球環境の唯一の構成要素である.しかし,重力が植物の成長や発達にどのような影響を与えるかはまだ明らかになっていない.本研究では,シロイヌナズナの培養細胞を,擬似低重力(擬似微小重力,擬似火星重力)と過重力(2 G)に曝露して,細胞増殖,細胞成長,エピジェネティクスの変化を調べた.国際宇宙ステーション(ISS)での宇宙実験は,制限が多いため,低重力環境を模擬するRandom Positioning Machine (RPM)や過重力環境を作り出すLarge Diameter Centrifuge (LDC)を用いて,様々な重力環境をシミュレーションして研究を行った.一般的に,細胞分裂は細胞周期の進行を制御することで調節され,また,細胞の成長はタンパク質合成,即ち,リボソーム生合成の活性によって決定される.シロイヌナズナの培養細胞を異なる重力条件に曝露した結果,擬似低重力下ではG1期の細胞の割合が減少し,G2/MS期の割合が有意に増加した.過重力下では,24時間後にS期の細胞が有意に減少していた.続いて,S期の細胞を検出できるEdU標識アッセイを用いて,間接的に細胞増殖率を評価した.結果として,擬似低重力下では,1 G対照との差が有意となり,過重力下では,S期の細胞数にほとんど変化は見られなかった.重力変化は,リボソーム生産速度の信頼性の高いマーカーである核小体の構造と活性に影響を与えることが知られている.本研究においては,全ての重力条件下で不活性なfibrillar核小体が有意に増加した.次に,細胞増殖や細胞成長に関連する細胞機能プロセスの正確なマーカーとしてヌクレオリン(AtNUC1)とフィブリラリン(AtFIB1)について,免疫蛍光とフローサイトメトリー解析を用いて定量的に評価した.擬似低重力下ではヌクレオリン発現が著しく低下し,これに対して過重力下では,有意な差は見られなかった.フィブリラリンは擬似低重力下で有意に減少し,過重力下では14時間後には有意に増加したが,24時間後では有意に変化しなかった.また,細胞周期制御機構の変化を探索するために,G2/Mチェックポイントの制御に関与するサイクリンB1と,G1/Sチェックポイントで制御活性を持つproliferaにおいても,フローサイトメトリー後の免疫蛍光強度を測定することで2つのタンパク質の細胞内の量を測定した.サイクリンB1は,擬似微小重力下では有意に増加したが,過重力下では有意な差は見られなかった.Proliferaは擬似微小重力下で減少し,過重力下では影響があまり見られなかった.最後に,エピジェネティックなメカニズムを担うDNAメチル化とヒストンアセチル化についても,フローサイトメトリー手法を用いて蛍光強度を測定した.DNAメチル化は,全ての重力条件下で高度メチル化が誘導された.ヒストンアセチル化は,全ての重力条件下で減少した.

 本研究により,重力変化を感受する細胞応答について特定のメカニズムを識別するための新しいパラメータと新しい洞察が得られた.加えて,植物の成長と発達過程に重要な影響を与えるエピジェネティックな機構を解析した.今後,実際の飛行データと比較して検証し,重力ストレスに対する植物の適応と生存のメカニズムを特定していくことが重要である.

 

興味を持たれた方はぜひご参加ください. 田口 直哉