2020年度後期 第6回 細胞生物学セミナー
日時:12月22日(火)17:00~ 場所:総合研究棟6階
Gravity-regulated localization of PsPIN1 is important
for polar auxin transport in etiolated pea seedlings
: Relevance to the International Space Station
experiment
Kamada, M., Oka,
M., Inoue, R., Fujitaka, R., Miyamoto, K., Uheda, E., Yamazaki, C., Shimazu, T., Sano, H.,
Kasahara, H., Suzuki, T., Higashibata,
A., and Ueda, J. (2019)
Life Sciences, Space Res, 22: 29–37
重力制御されたPsPIN1の局在は黄化エンドウのオーキシン極性輸送に重要である
:国際宇宙ステーション実験との関連性
重力に応じて植物は成長・発達を調節することはよく知られているが,そのメカニズムにはまだ解明されていなことが多い.方向性のあるオーキシンの流れは,組織内にオーキシン濃度勾配を発生させ,植物の成長・発達における複数の生理学的プロセスを調節する上で重要な役割を果たしている.この特異的な方向性のあるオーキシン輸送は,オーキシン極性輸送と呼ばれている.これまでの宇宙実験や,三次元クリノスタットを用いた地上実験,エンドウの重力屈性突然変異体を用いた実験で得られた結果を併せると,オーキシン極性輸送が重力の制御下にあることが強く示唆される.オーキシン極性輸送は,主に流入キャリアとしてのAUXIN RESISTANT1(AUX1/LUX)タンパク質,および流出キャリアとしてのPIN-FORMED(PIN)タンパク質のような細胞膜タンパク質の機能によって制御されると考えられている.これらのタンパク質の中でも,シロイヌナズナのpin形成変異体がオーキシン極性輸送の低下を示したことから,PINタンパク質はオーキシンの極性輸送に必須と考えられている.本研究では,重力制御されたオーキシン極性輸送のメカニズムを明らかにするため,エンドウの上胚軸およびフック領域におけるオーキシン排出キャリアータンパク質PsPIN1の遺伝子の発現と局在に焦点を当てた “Auxin Transport” という宇宙実験を実施した.
実験の結果,重力条件に関わらず,上胚軸の子葉(proximal)側での PsPIN1 mRNA の蓄積は,反子葉(distal)側での蓄積と比較してわずかに高い傾向が見られた.また,オーキシン極性輸送阻害剤である2,3,5-トリヨード安息香酸(TIBA)も上胚軸の子葉側と反子葉側の PsPIN1 mRNA の蓄積には影響を与えなかった.しかし,フック領域(茎頂から0-3 mm)では,μg 条件下での PsPIN1 mRNA の蓄積が,人工 1g 条件下と比べて増加した.また,ウエスタンブロット解析により,上胚軸における PsPIN1タンパク質の蓄積は,PsPIN1 mRNAの蓄積様式と同様であることが明らかとなった.PsPIN1に特異的なポリクローナル抗体を用いて免疫組織化学的解析を行ったところ,人工1g条件下で栽培したエンドウでは,フックおよびフック下部領域(フックから3-8 mm)のPsPIN1の大部分が内皮組織の細胞膜の基底側に局在しているのに対し,μg条件下で栽培したものでは,PsPIN1の局在が大きく乱れていた.TIBAは,μg条件下で特にPsPIN1の細胞内局在パターンを大きく変化させた.
これらの結果から,重力制御されたオーキシン極性輸送とオーキシン排出キャリアPINタンパク質の局在変化との間に密接な関係が存在することが示された.また,黄化エンドウにおいて重力による上胚軸の不均等なオーキシン輸送は,重力によって誘導されるオーキシン排出キャリアータンパク質PsPIN1の局在によって制御されている可能性が示唆された.
興味を持たれた方はぜひご参加ください. 千龍海夕