2020年度後期第7回細胞生物学セミナー

日時:112()1700〜場所:総合研究棟6

DeepStomata: Facial Recognition Technology for Automated Stomatal Aperture Measurement
Toda, Y., Toh, S., Bourdais, G., Robatzek, S., Maclean, Kinoshita, T.(2018)

bioRxiv, https://doi.org/10.1101/365098

DeepStomata: 顔認識技術による気孔開口部の自動測定

 

気孔は、様々な環境刺激に対する植物の生理的応答を研究するための魅力的なモデルである。気孔開口部の測定は、気孔の開き具合を制御する分子的基盤を解明するために最も一般的に用いられてきた。気孔開口部の測定には多くの時間と労力がかかるが、本研究ではDeepStomataというプログラムを開発することで、その作業を完全に自動化した。DeepStomataは、明視野顕微鏡像から気孔開口部の自動測定を可能にする初の試みである。

顔認識技術の原理に基づき、取得したヒマワリ(Commelina benghalensis )のリーフディスクの画像から、Histograms of Oriented Gradients(HOG)を用いて気孔を含む領域をトリミングした。トリミングした画像は訓練された畳み込みニューラルネットワーク(CNN)によって、気孔が開いているか、部分的に開いているか、閉じているか、気孔を含んでいないかを分類させた。気孔を含んでいない画像は解析に用いらず、閉じていた気孔には0 µmの気孔開口度を割り当てた。開いていた気孔と部分的に開いていた気孔の画像は、領域のセグメンテーションと幾何学的形状パラメータを用いた非気孔領域のフィルタリングアウトを組み合わせることによって気孔を分離し、気孔の短軸長を気孔開口度として測定した。

DeepStomataの精度を評価するために、自動的に測定させた値と手動で測定した値を比較した結果、2つのデータ間には有意な差が見られなかった。また、CNNによって分類された気孔の状態は開いていたか、部分的に開いていたか、閉じていた気孔で明確な分類が見られた。DeepStomataを使用した結果、自動化された気孔開口部測定の精度は手動による測定と同等であり、偽陰性率が低く、処理速度は80倍以上速いことが示された。

さらに、植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)および真菌毒素であるフシコクシンを含む82種類の化合物が気孔運動へ与える影響をDeepStomataによる気孔開口部の自動測定によって分析した結果、手動による測定では8種類の化合物が気孔開口抑制効果を有していることを見落としていたことがわかった。これらの結果から、DeepStomataによる気孔開口部の測定の自動化によって、より高い感度(すなわち偽陰性率の低下)で飛躍的に速く解析を行うことが可能になることが示唆された。

本研究では、コンピュータビジョンおよびパターン認識の技術が植物の画像解析において強力に応用できることを示唆している。また、これらの手法を組み込んだプログラムにより、化学・遺伝子スクリーニングなどの時間や労力のかかる反復的な作業の自動化がさらに汎用的となり、研究者は複雑な現象の解読に専念できるようになると期待される。

 

興味を持たれた方は是非ご参加ください。 西澤瑠生