2020年度後期 第4回 細胞生物学セミナー

日時:121() 15:00〜   場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

An Arabidopsis Plasma Membrane Proton ATPase Modulates JA Signaling and

 Is Exploited by the Pseudomonas syringae Effector Protein AvrB for Stomatal Invasion

Zhou, Z. , Wu, Y. , Yang, Y. , Du, M. , Zhang, X. , Guo, Y. , Li, C. , Zhoua, J-M. (2015)

The Plant Cell, Vol. 27: 2032–2041

シロイヌナズナ細胞膜プロトンATPaseJAシグナリングを調整し、

Pseudomonas syringaeのエフェクタータンパク質AvrBによって気孔からの侵入に利用される

 

 気孔は自然な開口部であり、多くの細菌性病原菌が侵入のために気孔を利用している。病原菌が植物に侵入すると、植物は気孔を閉鎖するが、いくつかの病原菌は植物組織の内部にアクセスして気孔を開口させる能力を持つ。コロナチン (COR) という細菌性因子やHoPZ1aHoPX1などのエフェクタータンパク質は、Pseudomonas syringaeによって生産され、気孔の開口を誘導することが知られている。CORは活性型ジャスモン酸 (JA) であるJA-Ileの類似物としてCOI1レセプターで感受され、転写リプレッサーであるJASMONATE ZIM-DMAIN (JAZ) タンパク質を除去することで、JAシグナリング経路を活性化し気孔を開口させる。HoPZ1aHoPX1JAZの分解によってJA経路を介した気孔開口を促進する。

AvrBP. syringaeのエフェクタータンパク質であり、植物の細胞質性免疫レセプターであるRPM1を有する植物において免疫を誘導する。その免疫活性にはRPM1と相互作用するRPM1-INTERACTING4 (RIN4) と呼ばれるタンパク質を必要とする。AvrB-RIN4の相互作用はRPM1を欠損した植物において病原性を促進させると仮定されているが、直接的な証拠はない。筆者らは以前の研究で、AvrBCOI1RIN4依存的な方法でCORに代わってJA応答遺伝子の発現を誘導することを示したが、上昇したJAシグナリングが細菌病原性に寄与するかは不明のままであった。最近の研究で、気孔の孔辺細胞の膨圧を直接制御すると推測されるシロイヌナズナ細胞膜H-ATPase (AHA1)RIN4が直接相互作用して気孔開口を促進することが示されたが、AHA1JAシグナリングに影響するかは明らかになっていない。

 筆者らは、avrBを有したCOR欠損性の菌株Pst cor- avrBと、RPM1免疫とJAシグナリングのトリガー機能を持たない変異菌株avrBT125AavrBR266Gを用いた実験から、AvrBが気孔の開口においてCOR欠損を補完し、病原性に寄与していることを明らかにした。次に、CORCOI1依存的に気孔を再開口させることから、rpm1 coi1変異体を用いて実験した結果、avrB誘導性の気孔開口や病原性もCOI1に依存することが示唆された。また、トマトのjai1変異体(COI1のオーソログの変異)を用いた実験から、トマトにおいてもJAシグナリングがavrB誘導性の気孔開口に必須であり、avrBが気孔開口を促進することを示した。シロイヌナズナのrpm1 rps2変異体とrpm1 rps2 rin4変異体に、Pst cor- avrBflg22CORを接種したときの細菌増殖と気孔開口度を比較した結果、avrBRIN4COR誘導性の気孔開口に必要であることが示唆された。また、rpm1変異体をバックグラウンドにAvrBを導入した遺伝子組換え体(rpm1 AvrB)におけるPM H+ATPase活性がrpm1変異体よりも有意に高かったことから、AvrBAHA1活性を調整する能力があるということが示唆された。AHA1 PM H+ATPaseJAシグナリングを活性化できるか確かめるため、AHA1の機能獲得型変異体であるost2-2DにおけるJA応答遺伝子の発現を調べた結果、ost2-2Dにおける恒常的なJAシグナリングはCOI1に依存し、罹病性に必要であることが示された。AvrBRIN4AHA1によるJAシグナリングの調節にCOI1に必要であることは、これらのタンパク質がCOI1の上流で働くことを示唆する。そこで、JAZタンパク質分解アッセイにより、AvrB RIN4AHA1が複数のJAZタンパク質の分解を誘導すること、AvrB誘導性のJAZタンパク質の分解はJAシグナリングを活性化する能力と相関することを明らかにした。また、共免疫沈降法により、AvrBAHA1COI1-JAZ9相互作用を誘導し、それによってJAシグナリングを強化するということが示された。

興味を持たれた方はぜひご参加ください。  長橋 瑞希