2021年度前期 第12回 細胞生物学セミナー
日時:7月6日(火) 16:30〜 場所:オンラインZOOM開催
Challenging the agricultural viability of martian regolith simulants
Eichler, A., Hadland, N., Pickett, D., Masaitis, D., Handy, D., Perez, A., Batcheldor, D., Wheeler, B. , Palmer, A. (2021)
Icarus, 354: 114022
模擬火星レゴリスの農業への適用可能性
有人宇宙開発の場所が地球から遠く離れていくにつれて、ミッションへの補給にかかるコストとリスクは大幅に増加する。乗組員のいる場所で現地の資源を探索、抽出、貯蔵、利用することでそのコストとリスクを減らすことができる.そしてその中で最も重要なのは,月や火星での食糧生産のための基質などの様々な用途のための,レゴリスの正確な特性評価とモデリングである。これまでの研究では、特定の模擬レゴリスが短期的に様々な植物の成長をサポートする能力があることが確認されている。
今回、筆者らは火星での現地の資源を利用した食糧生産の方法を研究する目的で、3つの異なる模擬火星レゴリスであるJSC-Mars1A、Mars Mojave simulant (MMS)、Mars Global simulant (MGS-1)を用いて、これらの植物栽培における有用性を評価した。(模擬物質をさらに改良して植物の成長サポートを可能にするため。)その結果、これらの模擬レゴリスではいずれも、栄養を補給しない状態で7日目以降の植物の成長を支えることができないことが確認された。しかし、窒素源を含む栄養塩類としてHoagland No.2溶液を与えた JSC-Mars-1AとMMSは、Arabidopsis thaliana (L.) Heynh.とLactuca sativa var. longifoliaの両方の7日目以降の成長をサポートすることができた。一方で、高アルカリ性(pH>9.0)のMGS-1では、この栄養塩類を追加しても生育を支えることができなかった(5日以内に枯れた)。そこで、MGS-1に硫酸を与えpHを約7.2まで酸性化させると、この培地で栽培した植物の寿命が約2倍(7日以内から一週間以上の生存率上昇)になった。これらの結果からレゴリスを用いた火星での植物成長には窒素を含む栄養塩類の補給必要であることが確認された。また、火星表面の複数の場所には高レベルの過塩素酸カルシウム(Ca(ClO4)2)が存在し,植物の成長における悪影響が懸念される。過塩素酸塩は、植物組織に蓄積されるとそれを摂取する人間の健康を脅かす可能性がある。そこで培地に(2% w/v)の過塩素酸塩を添加させたところ、JSC-Mars-1ApおよびMMS-1pでは発芽後5日以内にすべて枯れ、L. sativaの苗は9日後に枯れてしまった。これらにHoagland No.2を添加しても、生存率を増加させることはできなかった。これらの試料から過塩素酸塩を除去する必要性が示唆された。また、過塩素酸塩の少ない場所に基地を作ることも重要であろう。
以上より、レゴリスにおける窒素の不在と過塩素酸塩の存在は重大な懸念事項であり、火星における農業にむけて、対処すべき問題であることが確認された。
興味もたれた方はご参加ください(zoomのURLをお知らせします。) 田中蓮