2021年度前期 第10回 細胞生物学セミナー

日時：6月22日（火）16:30〜　場所：オンラインZOOM開催

phenoSeeder - a robot system for automated handling and phenotyping of individual seeds

Jhanke, T., Roussel, J., Hombach, T., Kochs, J., Fischbach, A., Huber, G., Scharr, H. (2016)

Plant Physiol., 172: 1358-1370

phenoSeeder - 個々の種子の取り扱いと表現型解析を自動化するロボットシステム

　種子の形質が非常に多様であることは高等植物の興味深い特徴であり，その繁栄に決定的に重要である．特に，種子の質量は苗の成長に重要な役割を果たすと考えられている．質量は，一般的には50~1,000粒のバッチの平均値として計測される．あるいは，二次元の投影画像から得られた投影面積を質量の代用とすることも多い．しかし，投影面積は，スキャン時の種子の形状や向きに左右される可能性があるため，必ずしも正確に測定できているとは限らない．物理的な観点からいえば，2次元的な特徴である面積よりも，3次元的な特徴である体積の方が，質量を表すのに適しているはずである．しかし，種子の体積を直接測定する手頃な方法は，これまで実現できていない．そこで筆者らは，個々の種子の取り扱いと表現型解析を自動化するロボットシステムであるphenoSeederを開発した．この装置は，非常に異なるサイズの種子を個別に取り扱い，表現型を決定することができる．このシステムは，ピックアンドプレース・ロボットと，多目的に拡張可能なセンサーで構成されている．個々の種子から，投影による1次元および2次元データ，3次元再構成データ，質量を検出し，これらから種子密度も算出される．各種子は，識別子によって追跡され，表現型を測定した後，さらなる評価や処理のために，植え付け，選別，または個別に保存することができる．phenoSeederを用いて，シロイヌナズナ（Arabidopsis thaliana (L.) Heynh.），セイヨウアブラナ（Brassica napus L.），オオムギ（Hordeum vulgare L.）の3つの系統について，それぞれ1,000粒以上の種子の形質を評価した．セイヨウアブラナのWotan系統の種子について，面積（A），体積（V），二次元画像から求められた体積（V _2D）を質量（M）と比較すると，ＡとMの相関は弱く，その誤差はかなり大きくなることがわかった．MとV _2Dでも，誤差はかなり大きくなった．しかし，MとVの相関は非常に強かった．オオムギのBrake系統の種子では，MとVは強い相関を示したが，MとV _2Dには相関関係がなく，2つのデータ集団が観察された．これは，オオムギの種子が腹側／背側のどちらにあるかによって，V _2Dを求めるための二次元画像に系統的な誤差が生じるためである．シロイヌナズナCol-0系統の種子では，MとV _2D，MとVの両方において非常に弱い相関を示した．これは，種子が非常に小さく，Mの測定が不正確だったためである．

phenoSeederによる種子質量の自動検出は，セイヨウアブラナとオオムギの両方で非常に信頼性が高かった．しかし，質量が極端に小さいシロイヌナズナの種子では，計量誤差が大きくなった．質量や体積の平均値を比較する限りにおいては，その相関は高いが，単一の種子を対象とする場合には，統計的な相関はあまり意味をなさない．しかし，特定のケースにおいては，体積または面積が質量の代用として用いられることがある．特にシロイヌナズナのように種子が小さい場合，天秤の測定限界を超え，正確に質量を計測することができない．体積から質量を推定することは，この秤量の不正確さの問題を解決する有効な方法かもしれない．現在の開発段階では，phenoSeederは日常的な種子の表現型解析に使用されているが，改良と拡張の可能性はまだまだある．形態的なものを超え，関心のある様々な形質をモニターするために，追加のセンサーを実装することもできる．それにより，近赤外分光法による種子の化学的含有量の分析やクロロフィル蛍光による種子の成熟度と性能のスコアリング，X線CTを用いた種子の内部構造の画像化も可能になるだろう．phenoSeederは，未知の系統の種子の特性評価，種子の品質評価，種子から植物体への成長過程の追跡など，多くの目的に使用できる．種子の多様性と形質の複雑さを考慮すると，個々の種子の形質の自動同定とモニタリングを可能にするphenoSeederは，種子生物学の応用に幅広い選択肢を提供すると結論づけている．

興味を持たれた方は是非ご参加ください（zoomのURLをお知らせします），　喜納南生