2021年度前期 第11回 細胞生物学セミナー

日時:629日(火)16:30~ 場所:ZOOM開催

An accurate skeleton extraction approach from 3D point clouds of maize plants

Wu, S., Wen, W., Xiao, B., Guo, X., Du, J., Wang, C., Wang, Y.  (2019)

Front. Plant Sci., 10:0248

トウモロコシの三次元点群からの正確な骨格抽出手法

植物の表現型を研究する上で正確かつ効率的な三次元の形質の定量は重要である.今日では植物の複雑な形態を計測するために様々なセンサーが使用され,大量の画像や高品質な三次元の点群データを得ることができる.これらの膨大な生データを処理し正確な形質を得るためには自動処理アルゴリズムが重要となる.しかし,その処理方法については植物種全体で統一された解決法は存在せず,植物ごとに専用のアルゴリズムを開発する必要がある.筆者らはトウモロコシ (Zea mays L.) において三次元点群から植物の形質を推定する手法として,点群データから正確に骨格を抽出する方法を提唱した.本手法は以下に述べる5段階の処理で構成されている.初めに,入力された点群のノイズの低減とポットの削除を行った.点群全体の密度を減らす均一単純化アルゴリズム (Han et al., 2015) を適用した後に,独自のクラスタリングアルゴリズムによってノイズを低減した.ポット部分の点群のRGB色を抽出しそれらと色の差異が閾値以下の点をポットとみなし削除した.次に,点群を収縮させるためラプラシアン収縮 (Cao et al., 2010) を繰り返し適用した.4回の収縮で点群は骨格状に収束した.3番目に,適応的サンプリング (Su et al., 2011) によって,骨格の枝の幾何学的な特徴を残したまま,骨格を表す上でキーとなるポイントを選定した.この処理によって点群はさらに削減され,キーポイントのみから構成される低密度な骨格状の点群が得られた.4番目に骨格を生成するために隣接する点同士を結合した.最後に,茎部分と葉部分での誤差を校正した.茎部分では本来直線になるべき領域に曲線が多く含まれることで誤差が生じていたため,茎をいくつかの部分に分割し最小二乗法に基づいて直線に近似した.葉部分では得られた骨格が入力された点群からずれると共に葉の先端の点が消失していたため,最初に入力された点群と一致するよう骨格を校正した.以上のプロセスからなる本手法の有効性を検証するため,異なる成長段階の3品種のトウモロコシ (ZhengDan958, JingKe968及びXiangYu335) を用いて実験を行った.3品種から2サンプルずつを選んでポットに植え替え,外因の影響を受けない屋内に並べて地上型レーザースキャナー (Faro Focus3D X130) を用いて点群データを取得した.点群を上述のアルゴリズムに入力し処理した結果,トウモロコシの成長段階や品種が異なっていても,抽出された骨格が取得した点群に適合することが示された.点群から抽出された骨格の正確性を検証するため,磁気式三次元デジタイザー (FastRak, Polhemuns, United States) により測定された値との比較を行った.比較するパラメータとして,葉の長さ,葉の傾斜角,葉の基部から最上部までの長さ,葉の方位角,葉の位置の高さ,草丈の6つを用いた.各パラメータにおける推定値と測定値の差を表す平均二乗誤差の平方根を求めた結果,抽出された骨格からの推定値と三次元デジタイザーでの測定値との間で,それぞれ5.27, 8.37, 5.12, 4.42, 1.53, 0.83%となり,全てのパラメータの相関係数は0.93以上だった.これにより,骨格から推定された値と測定値との高い整合性が示された.既に報告があるconstrained Laplacian smoothing (CLS) 点群収縮アルゴリズム (Su et al., 2011) に比べても,本手法での実測値との平均二乗誤差の平方根は約半分だった.処理の効率性を検証するため,入力する点の個数を140,000から2,000まで削減しながら骨格の構造と処理時間の変化を調べた.その結果,点の個数が10,000のときまで骨格の構造は概ね保たれていた.点の個数が少ないほど計算効率が上がることから,入力する点群の最適な点の数は約10,000と推定された.本論文で提唱された手法はレーザースキャナーによって得られる点群データから葉脈や茎の中心軸など植物器官の骨格を正確に抽出することができ,異なる品種や成長段階においても効率的な処理が可能であることが示された.本手法はトウモロコシの自動的な表現型計測と解析を発展させる上での技術支援を提供し,遺伝子型-表現型解析や幾何学的モデリング,成長シミュレーションなどへの応用が期待される.

興味を持たれた方は是非ご参加ください(zoomURLをお知らせします). 山浦遼平