2021年度前期 第14回 細胞生物学セミナー

日時:720日 16:30~ 場所:オンラインZOOM開催

 

 Leaf morpho-anatomical traits in Vigna radiata L. affect plant photosynthetic acclimation to changing vapor pressure deficit

 Amitrano, C., Arena C., Cirillo V., De Pascale, S., De Micco, V(2021)

Environ., Exp., Bot. 186: 104453

ヤエナリの葉の形態・解剖学的特性が、蒸気圧不足の変化に対する植物の光合成の順応に影響を与える

 

植物において1分子の二酸化炭素固定には400分子の水が必要となるため、植物は光合成速度と水の利用効率を巧みに調節している。大気中の相対湿度が低下することによる蒸気圧不足(Vapour Pressure Deficit:VPD)状態においては、植物の光合成速度、気孔コンダクタンス、および水利用効率は低下するというように水力学的挙動に影響を与える。しかし、葉の形態・解剖学的特性の変化がVPDへの光合成順応を促進するか否か、またどのように促進するかは明らかではない。筆者らは、異なるVPDの下での成長を調べることで、VPDの変化に対する植物の生理学的可塑性は解剖学的変化に起因するかもしれないという仮説を立て、制御された環境でのVPDの変化に対するヤエナリの生態生理学的応答における葉の解剖学的特性の役割を調べた。ヤエナリを高または低VPDレベルで30日間育て、次にそれと反対の条件(高から低または低から高)に移して4日間育て、葉脈・気孔の形態の観察、ガス交換量の算出、クロロフィルa蛍光の発光測定、糖質・デンプンの定量化、および統計解析を行った。

これらの結果、ヤエナリでは、高低2つのVPDレベルが、異なる葉の形態および解剖学的構造をもたらすことが明らかになった。具体的には、高VPD下で育てた植物では低VPD下で育てた植物に比べ成長の指標である草丈、葉面積、および葉の数が低下し、ガス交換に関係する生態生理学的指標である光合成速度、気孔コンダクタンス、および水利用効率が低下した。そして解剖学的特性として、高VPD下の植物では、葉身の拡大が阻害され、気孔と葉脈の密度が減少したことがわかった。さらに、高VPD下で生育させた植物を低VPD下に置いたところ、より好ましいVPD条件下に置いたにもかかわらず、新しい環境に適応できなかった。その逆に、低VPD下で育てた後に高VPD下で育てた植物では葉の解剖学的特性として、気孔の数が多くて小さく、葉脈の密度が高くなることによって高い生理学的可塑性を示した。そして高VPD下に移植された場合、高い蒸発需要の下で効率的に水を節約するためにガス交換速度を低下させた。本研究によって、高VPD下で栽培された植物は、その間に生じた葉の解剖学的特性によって制限されるため、移植後の適応における可塑性が損なわれているという仮説を筆者らは確認した。さらに、大気中のVPDに対する光合成の順応において、葉の構造が重要な役割を果たしていることを明らかにした。異なるVPDにさらされると、葉の構造的な形態・解剖学的変化が生じ、それが葉の光合成能力の範囲に影響を与え、植物が周囲の気候の変化に順応する能力を変化させることがわかった。

 

 

 

興味を持たれた方はご参加ください(zoomURLをお知らせします。) 山形知暉