2021年度前期 1 細胞生物学セミナー

日時:427() 1400〜 場所:総合研究棟6

Design of a module for cultivation of tuberous plants in microgravity: The ESA Project “Precursor of Food Production Unit” (PFPU)

Paradiso R, Ceriello A, Pannico A, Sorrentino S, Palladino M, Giordano M, Fortezza R, De Pascale S (2020)

Front. Plant Sci. 11:417

微小重力下での塊茎の栽培モジュールの設計:ESAプロジェクト「食糧生産ユニットの前身(PFPU)

 

高等植物は、長期の有人宇宙ミッションにおける生物再生生命維持システム(Bioregenerative Life-Support Systems in Space: BLSSs)において重要な役割を果たす。植物は、光合成による空気の再生、蒸散による水の再生、無機栄養としてのヒトの老廃物のリサイクルが可能であり、新鮮な食物を得ることや宇宙飛行士の精神的な健康を保つことにも寄与する(Hendrickx and Mergeay, 2007)。このBLSSsのための植物栽培システムは地上で開発されるが、この実用化のためには宇宙での実験も必要となる。宇宙は無重力状態または地上と比べて重力が小さい環境であり、このような条件下では液体や気体の挙動が変化するため、水・養液の分配や根圏での水分制御、植物内での水の流れ、植物とその周囲の環境との間の水の流れも重要な課題となる(Porterfield, 2002)。ESAプロジェクト「食糧生産ユニットの前身(PFPU)」では、微小重力下で食用に適したジャガイモやサツマイモなどの塊茎を形成する植物を栽培するためのモジュール式栽培システムを設計し、宇宙での持続的な応用を視野に入れて地上条件での予備実験を行うことを目的としている。PFPUデモ機には「根」「栄養」「生物汚染制御」の3つの主要モジュールが存在するが、中でもRoot ModuleRM)は植物を物理的に維持するためのモジュールであり、根や塊茎を収容し、根圏と空中圏の分離を保証し、地下水圏の環境条件(温度、水分など)を測定する機能を備えている。

筆者らは、BLSSsRMを実現するために採用されたプロトタイプの検証試験を地上で行った。検証試験の結果、3つの有機素材(セルローススポンジ、コットンウール、麻(Cannabis sativa L.)とケナフ(Hibiscus cannabinus L.)の組み合わせ)と3つの合成素材(オアシスの園芸フォーム、ロックウール、キャピラリーマット)を含む6つの基材のうち、空気・水の輸送、保水力などの水文学的特性の分析に基づくと、セルローススポンジがPFPURMの中で最も優れた素材候補であることが分かった。また、WaterScoutという水分センサーは、自然の土壌や泥炭ベースの基材の含水量をモニターし、灌漑や施肥管理を行うことに適していた。多孔性のチューブ回路をベースとして設計された分配システムは、水・養液をタイムリーかつ均一にセルローススポンジに供給することができた。センサーの読み取り値の下限や上限の定義に基づくと、効率的な灌漑戦略を定義することができ、同時に根圏での乾燥や過剰灌漑状態の防止も可能であった。次に行われた植物生育試験には、ジャガイモ(Solanum tuberosum L.)の2つのヨーロッパ品種、'Avanti'Stet Holland B.V.)と'Colomba'HZPC Holland B.V.)が選択された。また、基材には水文学的特性評価の結果に基づき、オアシス・フォーム、キャピラリーマット、セルローススポンジの3つの基材を使用した。その結果、セルローススポンジはジャガイモの塊茎から塊茎までの一連のサイクルを支えるのに適していることが分かった。しかし、真菌感染の感受性も高く、実用化させるためには幅広い抗真菌剤による播種前の前処理を検討しなければならない。植物栽培中は、施肥灌漑戦略として脱イオン水や養液を交互に供給する方法を採用し、セルローススポンジへの塩分の蓄積と根圏でのアルカリ化を防ぐことができた。今後の実験では、pHや電気伝導率の測定も可能な次世代センサーを用いることで施肥管理を改善できる可能性がある。

結果を総合的に分析すると、RMは根圏の適切な状態を保証し、生活環を完了することができる健康的な塊茎植物を得るのに効率的であることが分かった。しかし、地上での実験結果では重力が変化したときの基材や植物の挙動を予測できないため、宇宙実験でのさらなる検証が必要である。

 

興味を持たれた方は是非ご参加ください。 小出みなみ