2021年度前期 第2回 細胞生物学セミナー
日時:5月11日(火) 16:00〜 場所:Zoom開催
Three‐dimensional ultrastructure of chloroplast pockets formed under salinity stress
Yamane, K., Oi, T., Enomoto, S., Nakao, T., Arai, S., Miyake, H., Taniguchi, M.(2014)
塩分ストレス下で形成された葉緑体ポケットの三次元微細構造
葉緑体はストレス条件でしばしばストロミュールや葉緑体突起などのユニークな構造を示す。葉緑体がとるユニークな構造の一つとして、葉緑体が凹んでミトコンドリア、ペルオキシソームなどのオルガネラを取り囲むようになった「葉緑体ポケット」と呼ばれる構造がある。過酷な条件下では頻繁に観察されることから、葉緑体と他のオルガネラとの接触面積を増やすことで、葉緑体と他のオルガネラとのつながりを高めていると考えられているがその機能はまだ解明されていない。
近年、微細構造レベルでの3D構造の再構築が植物科学の分野で応用されている。細胞やオルガネラの3D構造を解析する手法として、高電圧透過型電子顕微鏡を用いた電子線トモグラフィーやシリアルセクショニングを用いた3D構造の再構築などがあげられる。3D画像を再構成するための連続した微細構造画像は、従来、超薄切片法と電子顕微鏡(TEM)で得られていた。連続した微細構造画像を得るためのもう一つの方法として、集束イオンビーム走査電子顕微鏡(FIB-SEM)がある。FIB-SEMは、集束したガリウムイオンビームで樹脂包埋試料の表面を削り、削られた面をSEMで観察するものである。葉緑体ポケットの全体構造を明らかにし、さらにその形成方法を明らかにするためには、超薄切片法とTEMを用いた従来の3D再構成法とFIB-SEMを用いた新しい3D再構成法の両方が有効であると期待される。本研究では、その二つの3D再構成法を用いて葉緑体ポケットの全体構造を解明することを目的とした。
3週間生育させたのち100 mMのNaClで4日間処理したイネ(Oryza sativa L. 'Nipponbare')の葉を採取し、固定・脱水後、Spurr樹脂またはLR White樹脂に包埋した。TEM(H7500; Hitachi, Japan)およびFIB-SEM(MI-4000L; Hitachi, Japan)を用いて葉肉細胞内に形成された葉緑体ポケットを観察した。その後、Image-Pro Premier 3Dソフトウェア(Ver.9.3, Media Cybernetics, USA)を用いてTEMおよびFIB-SEMで得られた連続画像の3D画像の再構築を行った。また、葉緑体ポケットの構築過程の可能性について考察した。
実験の結果、塩分ストレスにさらされたイネにおいて、葉緑体ポケットが観察され、それらの中には、細胞質、透明構造、脂肪体、ミトコンドリア、ペルオキシソームなどが含まれていた。コントロールには葉緑体ポケットを持つ葉緑体は存在しなかった。TEM観察により、オルガネラが葉緑体ポケット内に完全に包まれているタイプ(enclosed type)、葉緑体ポケットの中央部に小さな隙間があるタイプ(gap type)、葉緑体ポケットの片側が開いているタイプ(open type)の3つのタイプの葉緑体ポケットが観察された。 観察された70個のポケットのうち、35個がenclosed type、21個がgap type 、14個がopen typeであった。しかし、3種類のポケットの相互関係は分からなかった。FIB-SEM観察により、シート構造でペルオキシソームを部分的に取り囲んでいる葉緑体が明らかとなった。これによって、葉緑体が大きなシート構造を構築し、それが葉緑体ポケットの形成に関係している可能性が示唆された。
興味を持たれた方は是非ご参加ください。 千龍海夕