2021年度前期 第3回 細胞生物学セミナー
日時:5月11日(火)17:00〜 場所:オンラインZOOM開催
SmartGrain: high-throughput phenotyping software for measuring seed shape through image analysis
Tanabata, T., Shibaya, T., Hori, K., Ebana, K., Yano, M. (2012)
Plant Physiol., 166, 1871-1880
SmartGrain: 画像解析で種子の形状を測定するハイスループットな表現型ソフトウェア
種子の形状とサイズは,収量と市場価格に影響を与えるため,最も重要な農学的形質の1つである.そのため,育種に加えて,遺伝学,機能解析,ゲノミクスによる作物改良などの植物研究分野においても,種子の形状を定量的に評価することは有益である.一般的に,種子の形状は2つの方法で評価することがでる.簡単な方法は,ノギスで種子の長さと幅を測定することである.しかし,1つの植物の種子サイズにはほとんど差がないため,正確なデータをとるためには膨大な量の測定が必要であり.手動での測定ではデータ数や測定の質,得られる形状データの種類に限界がある.これに対し,デジタル画像処理技術を用いた計算手法を使えば,非常に小さな,または大量の種子の形状パラメータを自動的に測定できるようになる.そこで我々は,画像解析により種子の形状を判定するハイスループットな表現型プログラム「SmartGrain」を開発した.SmartGrainは,デジタル画像内のすべての種子を自動的に認識し,輪郭を検出して,種子の長さや幅,面積,周長などのパラメータを測定することができる.このソフトウェアを検証するために,自動測定が難しいイネ(Oryza sativa L.)のジャポニカ品種であるKoshihikariとNipponbareを用いて測定を行った.これらは種子の形状にほとんど違いがなく,小花柄や芒をもつため解析が非常に困難である.測定の結果,種子の方向や重なりにかかわらず,SmartGrainは正確に種子を分離し,認識した.また,芒や小花柄を自動で除去し,長さや幅,その他のパラメータを正確に測定した.さらに,イネだけでなく,シロイヌナズナやダイズなど,他の植物の種子においても,同様の方法で形状パラメータを測定することができた.
SmartGrainによる詳細な遺伝学的解析を行うために,Koshihikari とNipponbareの戻し交配系(BIL)をを用いてQTL(量的形質遺伝子座)解析を行った.その結果,13の遺伝子座が検出された.第3染色体の短腕と長腕付近に,幅に関する2つのQTLが検出され,短腕のNipponbare対立遺伝子は幅を減少させ,長腕のNipponbare対立遺伝子は幅を増加させた.7番染色体の長腕付近に,長さ,面積,周長に関する3つのQTLが検出され,各遺伝子座のNipponbare対立遺伝子は,それぞれこれらのパラメータを減少させた.真円度と縦横比に関する2つのQTLは,8番染色体の長腕付近に確認され,各遺伝子座のNipponbare対立遺伝子は,種子を丸くした.11 番染色体の長腕付近に 長さ, 縦横比, 真円度, 周長 に関する 4 つの QTL が検出され,Nipponbare対立遺伝子は,長さと周長を増加させ,種子をより細長くした.また,1番染色体の短腕付近に幅のQTLを,10番染色体の遠位端付近に周長のQTLを検出した.
SmartGrainのQTL検出精度と,11番染色体上に検出されたQTLの対立遺伝子効果を検証するために,11番染色体上にNipponbare染色体断片を持つKoshihikari背景の3つの染色体断片置換系統(CSLL)SL635,SL636,SL637を用いて,さらに解析を行った.SL636とSL637はKoshihikariよりも種子長が0.17 mm長かったが,SL635は長くなかった.また,SL636とSL637の1,000粒重量は有意に大きかった.このことから,Nipponbare対立遺伝子が種子長を増加させ,その結果,1,000粒の重量を増加させたと考えられる.
これまでに,GS3,GW2 ,qSW5/GW5 ,GS5,GW8など,いくつかの重要な種子形状QTLがマップベース戦略を用いてクローニングされている.これらのQTLは比較的大きな対立遺伝子効果を持ち.その中で最も効果が小さいGS5でも,幅で0.25 mm,種子重量で1.59 gの差を生じさせた. しかし,表現型変動の大部分はマイナーなQTLによって引き起こされていることが示されている.よって,穀物収量をさらに向上させ,種子の形状を制御するメカニズムを解明するためには,メジャーなQTLだけでなく,マイナーなQTLを検出することが重要である.SmartGrainは,非常に小さな影響を検出することで,これに貢献することがでる.
喜納南生