2021 年度前期 第 6 回 細胞⽣物学セミナー 

⽇時:5 25 () 1700〜 場所:ZOOM 

Cell cycle acceleration and changes in essential nuclear functions induced by simulated microgravity in a synchronized Arabidopsis cell culture 

Kamal, K., Y., Herranz, R., van Loon, J., J., W., A., Medina, F., J. 

Plant Cell Environ. 2019;42:480‒494. 

 

シロイヌナズナ同調細胞培養における擬似微⼩重⼒によって引き起こされる細胞周期の加速と重要な核機能の変化 

 

重⼒は⽣命にとって重要な⼿掛かりであり,地球環境の中で⽣物の進化の過程において唯⼀不変の要素である.重⼒が植物の細胞や分⼦機能をどのように変化させるのか,また,植物が重⼒の変化に対応して適応することができるのかどうかを知ることは,⾮常に興味深いことである.重⼒ベクトルの変化は,細胞の増殖や成⻑に影響を与えることが様々な⽣物システムで⽰されており,植物では,成⻑と発達における細胞周期機構の役割が特に注⽬されている.他に重⼒変化の細胞への影響として,クロマチンリモデリング機構が関与する遺伝⼦発現の制御に変化が⽣じることも注⽬されている.クロマチンリモデリングの基盤となるのは,DNA メチル化とヒストンアセチル化という 2 つの⼤きな修飾であり,これらの修飾はクロマチンの凝縮状態を変化させることでクロマチン構造に影響を与えることが知られている.重⼒変化下での細胞周期の研究には,in vitro の細胞培養システムの使⽤が⼤いに役⽴つが,これは重⼒変化に対する個々の細胞の純粋な反応を明らかにし,植物体での研究のような制限や制約を受けることなく,様々な細胞や分⼦の⽣物学的分析を⾏うことができる.さらにアフィジコリンを⽤いて細胞周期を同調させることができ,これにより細胞増殖率を決定する細胞周期のタイミングの正確なデータが得られるだけでなく,重⼒変化下での細胞周期の各相における機能的プロセスとその制御の特徴を明らかにすることができる.本研究では,ランダムポジショニング (RPM)で得られた擬似微⼩重⼒下で,異なる細胞周期相を特徴付ける⽬的で同調細胞を使⽤することに初めて成功した. 

アフィジコリン処理により同調させたシロイヌナズナの培養細胞をアガロースに包埋して固定し,擬似微⼩重⼒に 72 時間曝した.細胞は期間中 14 時間の時間間隔で採取され,固定または凍結して回収された.解析の結果, 細胞周期の進⾏速度は,擬似微⼩重⼒下では 1 G対照に⽐べてより速く,細胞周期は 2 時間短くなった.また,フローサイトメトリーで解析したところ,細胞周期の中⼼的な制御因⼦である cyclin B1 Prolifera とクロマチン修飾因⼦の遺伝⼦発現が変化しており,擬似微⼩重⼒が G2/M G1/S 期のチェックポイントとクロマチンリモデリングの誤制御を引き起こすことが⽰された.クロマチンベースの制御の変化としては,DNA メチル化の増加,ヒストンアセチル化の減少,クロマチン凝縮の増加,核転写の全体的な減少などが挙げられる.リボソーム⽣合成速度を,核⼩体のサイズや超微細構造と主要な核小体タンパク質であるヌクレオリンやフィブリラリン,これら2つの遺伝子の発現を⽤いて推定すると,擬似微⼩重⼒下では,特に G2/M 期において核⼩体の活性が低下することが⽰された.

これらの結果は,実際の微⼩重⼒及び擬似微⼩重⼒によって分裂細胞がどのような影響を受けるかについての知⾒を広げるものである.このような細胞ストレスに対処することは,宇宙探査での植物栽培に必要である.  興味を持たれた⽅は是⾮ご参加ください. ⽥⼝ 直哉