2021年度前期 8 細胞生物学セミナー

日時:68() 16:30〜 場所:Zoom

Morphological changes of giant mitochondria in the unicellular to multicellular phase during parthenogenesis of Ulva partita (Ulvophyceae) revealed by expression of mitochondrial

targeting GFP and PEG transformation

Suzuki, R., Ota, S., Yamazaki, T., Toyoda, A., Nonaka, S., Matsukura, C., Kuwano, K.,
Kawano, S.

Phycol. Res. 2016; 64: 176–184

 

ミトコンドリア標的GFPの発現とPEG形質転換法によって明らかになったUlva partita
(アオサ藻綱)単為生殖中の単細胞から多細胞段階における巨大ミトコンドリアの形態学的変化

 

ミトコンドリアは真核生物の細胞内でエネルギー生産を行うオルガネラである。細胞内におけるミトコンドリアの形や数は、組織や種類によって変化する。その中でも、細胞内のひとつのミトコンドリアのように分枝や結合する巨大ミトコンドリアは、ミトコンドリアの形態変化の顕著な例であると考えられている。シロイヌナズナにおいて巨大ミトコンドリアは頂端分裂組織および葉原基分裂細胞において現れ、未分化細胞の細胞分裂のためのエネルギーを供給すると考えられている。一方、藻類においては、単細胞緑藻類の細胞周期の特定の段階では観察されているが、多細胞藻類ではまだ観察されていない。そこで、多細胞の大型緑藻類であるアオサ属のUlva partitaを用いて巨大ミトコンドリアの調査を行った。

U. partitaにおける巨大ミトコンドリア有無とその動態を、単為生殖システムを用いて調査した。配偶子の単為生殖とミトコンドリアの動態を蛍光顕微鏡で観察するために、まずU. partitaをカバーガラス上で培養し、観察する実験系を確立した。正の走光性を利用して配偶子を集め、底部がカバーガラスになっている6ウェルプレートを人工海水で満たし、配偶子懸濁液を入れた。当初、配偶子は 2 鞭毛で眼点をもつ涙型の細胞であったが、暗所で培養すると単為生殖が始まり、培養から 24 時間後、配偶子はカバーガラスに張り付き、単眼点を持つ球状の細胞(S期細胞(small cell))に変化した。その後、単為生殖が進むと配偶子は眼点を失って大きな細胞へと成長した(L期細胞(large cell))。そして細胞分裂を繰り返すとU. partitaの配偶子は多細胞の葉状体へと発達した。

次に、巨大ミトコンドリアの動態を観察するために、ポリエチレングリコール(PEG)法を用いて配偶子の一過的な形質転換法の確立を試みた。ミトコンドリアの可視化のために、Ulva pertusa由来のミトコンドリア標的ペプチドを融合したGFPをコードしているプラスミドpEGFP-PTRBCS1-mtを用いて形質転換を行い、ミトコンドリアにおいてGFPを発現する細胞を得ることができた。PEG法の遺伝子導入による形質転換効率は9.015.1%であった。この方法を用いて、ミトコンドリア動態を観察した結果、S期の細胞内で紐状の巨大ミトコンドリアの存在が明らかになった。またL期の細胞内では、網状の巨大ミトコンドリアが観察された。紐状ミトコンドリアと網状ミトコンドリアはどちらも葉緑体と共に位置しているように見えた。細胞分裂開始後、網状ミトコンドリアは分解され、5細胞期には小さな楕円形のミトコンドリアが観察された。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。 成瀬真友香