2021年度前期 第9回 細胞生物学セミナー
日時:6月15日(火)16:30〜 場所:Zoom
Full-length transcriptome survey and expression analysis of Cassia obtusifolia to discover putative genes related to aurantio-obtusin biosynthesis, seed formation and development, and stress response
Deng, Y., Zheng, H., Yan, Z., Liao, D., Li, C., Zhou, J., Liao, H. (2018)
Int. J. Mol. Sci. 19: 2476
エビスグサの全長トランスクリプトーム解析と発現分析による
オーランチオオブツシンの生合成、種子の形成と発達、ストレス応答に関連する推定遺伝子の発見
エビスグサCassia obtusifolia L.は、種子にオーランチオオブツシン(アントラキノンの一種)を含む薬用植物である。このオーランチオオブツシンの生合成、種子の形成・発達、ストレス応答の分子機構を理解するためには、エビスグサの遺伝情報について把握することが必要となる。これまで、ショートリード型次世代シーケンシング(NGS)技術によってエビスグサ種子のトランスクリプトーム解析が実行されてきたが、得られた配列の大多数が完全長のcDNA配列ではなく、様々な器官や組織の遺伝子発現プロファイル情報を十分に提供するものではなかった。本研究では、エビスグサの種子、根、茎、葉、花から構築した、15個のcDNAライブラリを、200 bp以上のロングリードが得られる一分子リアルタイム(SMRT)シーケンシングとNGSプラットフォームを組み合わせ配列決定を行った。
その結果、SMRTでは4,315,774個、9.66 Gbのロングリードが、NGSプラットフォームでは361,427,021個、108.13 Gbのショートリードがそれぞれ得られた。67,222個のコンセンサスアイソフォーム(遺伝子アイソフォーム群)はリードからクラスター化され、そのうち81.73%(61,016)が1000 bp以上の長さだった。さらに、この67,222個のコンセンサスアイソフォームは、58,106個の非重複転写物を示し、そのうちの98.25%(57,092個)がアノテートされ、25,573個がKEGGにより特定の代謝経路に帰属した。CoDXS (1-deoxy-D-xylulose 5-phosphate synthase: 1-デオキシ-ジ-キシルロース-5-リン酸合成酵素)とCoDXR (1-deoxy-D-xylulose 5-phosphate reductoisomerase)の両遺伝子はトランスクリプトームから得られた配列の正確性を検証するために、機能的な特性評価に直接使われた。658個の種子特異的な転写物の全てが、種子の生理的プロセスにおいて特別な役割を果たしていることが示された。アントラキノン生合成の初期段階に関与する転写物の解析により、エビスグサのオーランチオオブツシンが主に種子内で生成されることが示唆された。エビスグサにおけるアントラキノン生合成が主にイソコリスミン酸とメバロン酸/メチルエリトリトールリン酸塩(MVA/MEP)経路から生成され、メナキノン特異的イソコリスミン酸合成酵素(ICS)、DXSとイソペンテニル二リン酸合成酵素(IPPS)が触媒する3つの反応が限定的なステップである可能性が示唆された。種子特異的Cytochrome P450 (CYP)群、Sアデノシルメチオニン (SAM) 依存性メチル化酵素、UDPグリコシルトランスフェラーゼ(UDPG)などは、アントラキノン生合成の後期における有望な候補遺伝子となった。加えて、3つのMYB転写制御因子と1つのMADSボックス転写制御因子を含む4つの種子特異的転写因子と選択的スプライシングは、種子の形成と発達に関与してる可能性がある。一方、Hsp20遺伝子のほとんどは、種子と花において高い発現レベルを示した。そのうちの7つは、様々な非生物的ストレス下においてシャペロン活性を持っている可能性がある。また、今回特に高い関心が持たれた遺伝子の発現パターンとしては、トランスクリプトーム解析とqRT-PCRの両方において同様の傾向を示した。
以上のことから、本研究はジャケツイバラ科において初めて全長トランスクリプトーム配列を報告するものであり、エビスグサにおけるオーランチオオブツシンの生合成、種子形成と発達、ストレス応答より詳細な見識を提供するものである。
興味を持たれた方は是非ご参加ください。 小出みなみ