2021年度後期 第10回 細胞生物学セミナー
日時:12月7日(火) 16:30〜 場所:Zoom開催
Analysis of graviresponse and biological effects of vertical and horizontal clinorotation
in Arabidopsis thaliana root tip
Villacampa, A., Sora, L., Herranz, R., Medina, F., Ciska, M. (2021)
Plants 10, 734
シロイヌナズナ根端における垂直および水平クリノローテーションの重力応答と生物学的影響の解析
クリノローテーションは、地上で微小重力をシミュレートするために考案された最初の方法であり、現在でも一般的に用いられている。クリノスタットを用いた研究は数多く行われているにも関わらず、クリノスタットの最適な設定は確立されておらず、角速度、サンプルの向き、回転中心からの距離など実験の設定が異なる場合、サンプルに異なる反応を生み出す。本研究では、低速クリノローテーション(1 rpm、SC)と高速クリノローテーション(60 rpm、FC)、そして、垂直クリノローテーション(植物の縦軸が回転軸と垂直、VC)と水平クリノローテーション(植物の縦軸が回転軸と平行、HC)に対するシロイヌナズナ(A. thaliana)の根の反応を比較した。
まず、シロイヌナズナの種子をペトリ皿に7粒ずつ播種し、23℃の長日条件(16時間/8時間)下で、垂直に5日間栽培して、根に重力ベクトルに沿った成長をさせた。5日後、苗をクリノスタットで垂直または水平に、1 rpmおよび60 rpmの2つの速度で24時間クリノローテーションした。また、コントロールとして、垂直に保った状態と、90°傾けた状態でも栽培した。各条件に1、2、3、24時間暴露する前後で画像を取得した。得られた画像からImageJソフトウェアを用いて根の長さを測定し、垂直方向および水平方向の成長指数、根の先端と基部を結んだ直線の傾斜角を測定した。各条件の苗を、光学顕微鏡観察のため固定・染色、電子顕微鏡観察のため固定・樹脂包埋を行いそれぞれ観察し、画像を取得した。また、共焦点顕微鏡観察のために、野生型(Col-0)および、通常は核に構成的に発現していてIAAが結合すると分解される、Aux/IAA相互作用ドメイン(domain II: DII)を持つオーキシンセンサーDII-Venus、PIN2-GFPの苗を固定・染色を行い観察し、画像を取得した。
SCサンプルでは、根の曲がりはわずかであった。一方、FCサンプルでは、クリノローテーション軸から距離がある苗ほどペトリ皿の外側に向かって明確な方向性のある成長が見られた。これは、遠心力が根の成長方向に大きく影響しているためと考えられた。また、水平高速クリノローテーション(HFC)サンプルでは、根の成長率が著しく高かった。垂直低速クリノローテーション(VSC)および水平低速クリノローテーション(HSC)サンプルでは、コントロールやFCサンプルと比較して、平衡細胞全体に平衡石が分散していた。90°傾けた(回転させず水平にしたのみ)サンプルとHFCサンプルでは、平衡石の形が不規則なものも見られた。この変化は実際の微小重力下では見られなかったことから、人工産物である可能性が示唆された。コントロールおよびVCサンプルでは、細胞壁はほとんどが直線的であったが、HCサンプルでは、しばしば不規則な波状になっており、特にHSCサンプルではその特徴が顕著であった。これは、長時間の機械的ストレスを受けたためと考えられた。クリノローテーションサンプルでは、PIN2-GFPの非対称な分布は観察されなかったが、HCサンプルでは、PIN2が下層の内皮で細胞内に取り込まれていた。このメカニズムと機能は明らかではないが、機械的刺激の強さとの関連が示唆された。クリノローテーションのいずれの条件においても、オーキシンの分布パターンに明らかな変化は見られなかった。
本研究によって、植物はVCとHCに対して異なる反応を示し、後者はストレス反応と関係していることが確認された。特にHSCでその傾向が顕著であることが明らかとなった。VSCにおいてストレス反応が見られないこと、成長パターンと平衡石の分布が実際の微小重力実験で観察されたものと類似していることから、VSCは微小重力シミュレーションに関して人工産物の影響を最も受けにくいと結論付けられた。
興味を持たれた方は是非ご参加ください(zoomのURLをお知らせします)。千龍海夕