2021年度後期 第12回 細胞生物学セミナー

日時:1214() 1630〜 場所:Zoom

Microgravity modelling by two-axial clinorotation leads to scattered organisation of cytoskeleton

in Arabidopsis seedlings

Pozhvanov, G., Sharova, E., Medvedev, S. (2021)

Func. Plant Biol. 48 : 1062

2軸クリノローテーションによる微小重力モデリングがシロイヌナズナの芽生えの細胞骨格の

散在的な組織化を引き起こす

 

長期にわたる宇宙開発を成功させるためには,微小重力環境に適応できる自立した生命維持システムを開発する必要がある.特に植物は閉ざされた生態系には欠かせない存在であり,重力環境が植物の成長に与える影響を調査することは必要不可欠である.宇宙で栽培された植物の多くの成長に関するパラメータは地上で栽培されたものとは異なり,根は波打ち歪んだ挙動を示すことや, 植物の発育が遅延し成長が損なわれ,生産性が低下することが報告されている.宇宙飛行実験を補完するために,地球上では2軸(2A)クリノローテーションを用いて微小重力条件がモデル化されており,いくつかの基礎研究でプロテオームやメタボロームの調節,胚発生,細胞周期の制御などに関するデータが得られている.しかし,細胞分裂と細胞伸長の両方の方向を決定するために重要な役割を果たす細胞骨格の微小重力下に対する挙動についての理解はまだ限られている.そこで本研究では,シロイヌナズナの芽生えのアクチンマイクロフィラメント(MF)の可視化に有効であることが証明されている2つの異なる形質転換株(GFP-fABD2Lifeact-Venus )と微小管(MT)の可視化に有効な形質転換株(GFP-MAP4GFP-TUA6 )において2Aクリノローテーション条件下の伸長中の根と胚軸の細胞におけるMFおよびMTの組織化と再構成の定量化を試みた.

Aクリノローテーションによる微小重力モデリングは芽生えの表現型にいくつかの変化をもたらした.最も顕著な変化は根の成長パターンであり,2Aクリノローテーション下では根の長さが大幅に減少して根の曲がり具合が大きくなり,野生型,GFP-MAP4Lifeact-Venusで波状の成長パターンを示すだけではなく,酸化ストレスの指標の一つである過酸化水素含量が一時的に上昇した.2Aクリノローテーション条件下において細胞骨格の組織化を解析したところ,Lifeact-Venus ではMFの方向性にあまり変化は見られなかったがGFP-fABD2株では影響が顕著にみられた.GFP-fABD2株ではMFの密度に変化が見られるだけではなく伸長する根や胚軸の細胞において縦方向のMFの割合が減少し,それに対応して斜めや横方向の割合が増加しておりMFが「散在した」方向に配列されていた.驚くべきことに2Aクリノローテーション条件下で生育してMFが「散在した」方向に配列された後,垂直方向の重力刺激を与えると2030分以内にMFの配列が縦方向に戻った.GFP-MAP4GFP-TUA6株を2Aクリノローテーション条件下で生育させてMTの方向性に着目して解析すると,MTの配向や密度に与える影響はわずかであり,全体として縦および斜めの割合が減少し横方向の割合が僅かに増加することが示された.

これらのデータは,微小重力下でのMFの「散在した」組織化が重力下での細胞骨格の「縦長」構造への迅速な変換のための優れた基盤として役立つ可能性があることを示唆している.

 

興味を持たれた方は唐原先生か玉置先生にご連絡ください.ZoomURLをお伝えします.田口 直哉